112回医師国家試験・総評

2018年2月10日(土曜日)と11日(日曜日)の2日間にわたり、第112回医師国家試験が施行された。

今回から日程が1日減り、計2日となった。それにともない、問題数も100問減り400問となった。「形式面は変われど中身は大して変わるまい」と内心タカをくくっていたのであるが、それはとんでもない誤算であった。112回国試は見事、これまでの国試の呪縛から解き放たれ、新たな境地へと到達した。今年の国試を一言で言うとどうなるか、を考えていたら、ふと『みんなちがって、みんないい』という金子みすゞの詩が思い浮かんだ。どういうことか。今年の国試を一緒に振り返りながら説明していこうと思う。

構成

下記の構成で実施された。

【1日目】
 Aブロック(計75問=一般各論15問+一般臨床60問):165分
 Bブロック(計49問=必修一般24問+必修臨床15問+必修長文10問):95分
 Cブロック(計66問=一般総論25問+総論臨床26問+総論長文15問):140分
【2日目】
 Dブロック(計75問=一般各論15問+一般臨床60問):165分
 Eブロック(計51問=必修一般26問+必修臨床15問+必修長文10問):100分
 Fブロック(計84問=一般総論45問+総論臨床24問+総論長文15問):155分

厚労省側の裏事情もあるのかもしれないが、どうして偶数でキレイに割り切れるはずの問題数をあえてバラすのか。必修(BとEブロック)は合計100問なのだから、50問+50問にすればよいと思うのだが、不規則な形に時間割を設定する神経が理解できない。「そういうもんだ」と受け入れざるをえないのが現状なのだが。


形式ごとの概説

各論

AとDブロックは各論だ。165分という制限時間が課されており、非常に重い。臨床問題も多く、とにかく体力を消耗する。1日目、2日目ともにトップバッターで配備されているため、ここで気力を削がれてしまった受験生も多いのではないだろうか。筆者も長年付き合ってきた医師国家試験ではあるが、正直辛く感じた。2日間に試験日程が圧縮された結果、1日あたりの負担が多くなってしまった。次年度以降の受験生は体力の養成を今から行っておこう。

肝心の出題内容だが、Aブロック・Dブロックともに難しかった。むろん112A48106A27のプール問題)のような癒やしも含まれていたが、112D25(膵腫瘍の質的診断を行うために行うべき検査)のような斬新かつ臨床的な出題もあり、完全に「できた!」と言い切れる受験生は少ないと考える。

必修

BとEブロックが必修。8割以上の得点を確保せねば、他のブロックがどれほど高得点でも即不合格となってしまう絶対基準が課される領域だ。その性質から従来多くの学生に恐れられていたのだが、私はここ数年「基本的な医学的知識と考える力さえあれば必修単独で不合格となることはない」と訴え続けている。むろん、考え方は人によりけりで、必修押しの予備校も国試業界には存在するため、必要以上に必修に不安を抱えてしまう学生もいたりする(実際はそんな必要は全くない)。

さて、今年の必修はどうだったのか。Bブロックは易しめの構成であった。初日の必修がマイルドであったことから安心できた受験生が多かったようだ。一方、2日目のEブロックは標準的な出題で、Bブロックでの得点ストックができていなかった受験生はヒヤヒヤしたかもしれない。総じて今年の必修は標準〜やや易であったと言える。

出題内容もいたって標準的であり、無理なく80%の正答を確保できる良心的な出題だった。むろん、112B30(前置胎盤による大量出血への対応)や112E42(呼吸状態が悪化した患者にまず行う気道管理)といった悩ましい難問もある。が、それらを全て失点したところで80%を超えることは十分にできる。必修ブロックは満点を取っても意味がない。80%を超えるか超えないか、だけが重要なわけで、その合格基準に達するだけの得点ができればそれ以上望むことはないのだ。

総論

CとFブロックが総論に該当する。解剖生理や公衆衛生が主に出題されるブロックで得意・不得意が分かれる。また、治療についてもツッコまれたところまで聞かれ、後で述べる輸液系の臨床的な出題が目立った。その観点からやや難に感じた受験生が多かったようだ。

総論ブロックでは長文3連問が出題されるのも特徴。112C51〜53のような長い文章を読解させる形式で、限られた時間内に必要な情報のみを能動的にピックアップするスキルが要求される。今年の問題はどれも良問であった。次年度以降の受験生の方はしっかりと今年の問題を演習し、上記のスキルを体得してほしい。

全体

各所で口を酸っぱくして唱えているのだが、医師国家試験は年々難しくなる(筆者は「国試のインフレ化」と呼んでいる)。医学部生は極めてスマートであるため、要求水準が上がれば上がるほど対策をし、国試も医学部生も好(!?)循環で成長していくわけだ。その観点から「今年の国試は難しかったですか?」と問われれば、「そりゃ、難しいよ」と答える。が、「今年の国試のインフレ化の波はキツかったですか?」と問われれば「例年並みのインフレ化です」と答えることとなる。

ここで重要なのはインフレ化の波に取り残されないことだ。同級生たちと切磋琢磨し、あくまでスタンダードな学習を丁寧に継続すること。偏った学習やヘンにテクニカルな国試対策をすると波に乗れず、窮地に追い込まれることになってしまう。


科目別の出題分析

以下に全400問を科目別に分類したチャートを示す。

内科・外科

赤い色で示した全10分野だ。(一部例外はあるも)市販の問題集で分厚い科目はやはり出題数が多い。また、昨今の高齢化を受け、感染症・呼吸器・循環器の出題が特に目立つ。昨年と比較してみると、肝胆膵と免疫の割合が増え、消化管と神経の割合が減った。肝胆膵は肝細胞癌や膵炎といった古典的疾患の出題も依然多いが、肝炎に関する問題が増えている。また免疫の分野では関節リウマチと血管炎について「これでもかっ!」というほど問われた。それぞれしっかり対策をしておこう。

産婦人科・小児科・加齢老年学

上記チャートでは黄色で示している。産婦人科と小児科の出題割合は例年並みだが、今年も加齢老年学が大きく議席を伸ばした。もはや加齢老年学の1科目だけで、内科のほとんどの科目を凌駕している。medu4創設時から私は加齢老年学の重要性を訴えてきた。日本の現状を冷静にみつめれば当然のことであろう。「高齢者とクスリ」「ロコモティブシンドローム・サルコペニア・廃用症候群・フレイル」といった概念は次回以降も数多く出題されるはずだ。過去問対策を入念に行うとともに、その原理・原則から学んでおくことを推奨する。

産婦人科は臨床色が極めて強い問題が多かった。112A43(子宮内膜症[チョコレート嚢胞]の治療)、112B30(前置胎盤による大量出血への対応)、112E35(破水した妊婦の妊娠継続の可否決定に有用な情報)などが好例だ。長年臨床経験を積んでいる医師からすると当たり前の出題であっても、限られた時間で病棟実習をしたにすぎない受験生にとっては難解な出題に感じる。割れ問になったものは失点しても痛くはないのであるが、こうした臨床的色彩の強い問題も得点できるに越したことはない。これに関するTipsは後で示す。

マイナー

緑で示した7科目。整形外科と眼科の出題が減り、耳鼻咽喉科の問題が増えた。が、これは出題回数による誤差の範囲だ。満遍なく対策をすべきことに変わりはない。出題もプール問題を中心に良心的な問題が多い。マイナー科目は学習が後回しとなりがちで、対策がおろそかになってしまう者も依然として多いが、あまりにももったいない。早期から病態に基づいた定石的な学習を開始しよう。早く始めるに越したことはない。

公衆衛生

やはり今年も出題数No.1は公衆衛生となった。112回から適用となった新ガイドライン下では公衆衛生の割合が一見増えたかのような記載となっており、500問出題当時と出題数は変わらないのでは? と予測する向きもあった。が、蓋を開けてみれば出題数は昨年より減少した(111回58問→112回49問)。

出題内容も、全分野ほぼ均等に出題され、難易度も標準。これまでと同様の学習をしておけば大丈夫だ。

外科・総論

赤いバーで示した10分野は内科・外科であるが、ここで言う「外科」はあくまで臓器ごとの知識としての外科を指す(例:肝細胞癌の治療適応、など)。水色で示された「外科・総論」には外科手術の考え方や栄養についての出題を含めた。112C58(手術室入室後、皮膚切開までの間に行うべきこと)や112F52(上行結腸癌手術の周術期管理について)が好例だ。かねてからチョコチョコ出題はあった領域だが、こうした外科と栄養を絡めた問題が112回では出題数がさらに増加した。臨床重視の国試を作成したい、という出題委員の意図が見て取れるところと言えよう。ただし、今年の出題を見る限り、(上記2問もそうだが)難易度はそこまで高くない。4〜5年生の病棟実習で積極的に手術室に入り、管理を学ぶとよいだろう。

112回のトピック

多肢選択式の出題が消失した、112B40のような下線を使った問題が増えた、など形式面での変化はいくつか見られたが、あまり本質ではない。ここでは112回を112回たらしめている特徴をピックアップしたい。

受験生に「評価」させる出題

10年前までの国試といえば「Aという知識を覚え、試験会場でAが聞かれたらAと答える」という安直なものであった。が、その後こうした傾向は変化し「病態を考えて導く」スタイルの問題が急増する運びとなる。その流れが1つ実を結んだのが112回だったと言えよう。112D19112D23112D61の3問をみてほしい。すべて同一ブロックであるが、1問目では「継続する」、2問目では「変更する」、3問目では「増量する」が正解となる。つまり、「Bという疾患にはCという薬を使う」という知識ではもはや戦えないのだ。「自身が臨床医となって患者さんを診察している情景を思い浮かべ、実際に患者を評価せよ!」というメッセージが投げかけられている。薬が効いていると評価したなら継続だろうし、無効なら変更すればよい。不足していると判断したなら増量すればよいのだ。臨床的・実践的な判断能力・評価スキルが問われる時代となった。

輸液の組成を深くまで突っ込む出題

国試の歴史を振り返るに、輸液についての出題は106回ころから盛んになった。当時の受験生はまだ「生理食塩水」と「5%ブドウ糖液」の違いすら知らなかった。「5%ブドウ糖液」が糖分補給のために使われると思っていた学生がほとんどだった時代だ(今思うと怖い時代でもある)。その後、輸液についての出題は一定数みられたが、112回では決定的に出題形式が変わった。

112C36112D28112D43の3問を見てほしい。なんと、輸液組成の選択まで問われるようになったのだ。「生理食塩水」のような言葉として輸液を知っているだけでは不十分で、実際に何がどれだけ含まれているか、を知識と理解に基いて自身で選択できるようにならねばならない。従前であればこれは研修医から学習すればよい事項であった。が、医学教育の前倒しがとうとう研修医と医学部生の境界までをも不透明化してしまったらしい。ほかにも112回では輸液についての問題が数問出題されていたため、かなりの得点割合となった。113回以降の受験生は確実に整理をしておくこと。

同じ疾患が繰り返し、違った切り口から何度も出る

500問が400問へと減ったわけで、極力疾患の重複をさせず、満遍なく出題しようと考えるのが人情というものだ。が、その常識は112回医師国家試験では通用しなかった。顕微鏡的多発血管炎〈MPA〉が3回、白血病が4回、trisomyが3回、AaDO2関連の計算問題が2回、など大層偏りのある出題となった。

しかし、どれも同じ問題というわけではない。少しずつ違った切り口からテーマを変えて出題されている。白血病の問題が1つ解けたからといって、他3つがすべて正答できるとは限らないのだ。こうした多面的な出題も今年の特徴であったといえよう。

では問題数が少なくなり、出題が偏ったわけなので、全分野から出題されなくなったのか?......答えはNo.だ。「そういえばあの疾患出てないな」と思っても、ちゃっかり一般問題で顔出ししている。その巧妙な散りばめ方たるや見事と言わざるをえない。長年国試の課題であった「一般問題と臨床問題の棲み分け」が綺麗に解消されることとなった。

臨床か机上か? 慣習かガイドラインか? 出題者の意図を読むのが難しすぎる

医師国家試験は当然ながら医師を誕生させるための試験であり、臨床に基づいた出題でなくてはならない。が、同時にペーパーテストであり、多様性のある医学現象を5択で片付けるわけであるので、机の上の学問的側面やガイドラインでキチッと決まっているという側面があって然るべきである。

112回国試は概ね良問が多かったのであるが、臨床的側面を追求しすぎた(つまりは攻めすぎた)せいで、上記の線引が曖昧になってしまい、大きく割れた問題が数問存在した。1つ例を挙げよう。112A37だ。日本の添付文書によれば「2回静注」となっているが、PK/PD理論に基づくと実臨床や海外では「3〜4回静注」を推奨する向きもあり、非常に悩ましい。あくまでペーパーテストなのだから添付文書通りに「2回静注」を選べ、という意図なのか。はてまた、「添付文書なんて丸暗記していることは要求していない! 理論から導け!」という意図で「3回静注」が正答なのか。考えれば考えるほど分からなくなってくる。

極論を言えばこうした問題は合否を分けないため捨ててしまえばよいのであるが、貴重な試験時間を一定量消費させられてしまうし、いつまでも頭にモヤモヤが残るのも気持ちが悪い。今回の国試の唯一の問題点だったように思える。


『みんなちがって、みんないい』

とある現象をAさんはXと解釈し、BさんはYと解釈するかもしれない。それは日常生活でも当たり前のことだ。例えば、Aさんが美味しいと思うご飯はBさんにとって美味しくないかもしれない。実臨床でも同様のことが言える。ガイドライン等で標準的な医療を提供できるようになったものの、とはいえやはり人間が行うわけであるから、細かな差異が出る。

これまでの国試は全受験生に同じことを覚えさせて、同じ問題を同じ形で考えて、同じ答えに着地させようとしていた。が、今年の国試を見る限り、もっと医師としての人間的個性を持ってほしいと出題者の先生方は思っているのではないか、と感じた。受験生にペーパー上とは言え実際の患者さんの投薬状況を「評価」させ、膨大な組合せが存在する「輸液組成」を考えさせ、同一疾患とは言え「多面的視点」から見つめさせ、机上と臨床の境界を取り除こうという意図が汲み取れた。

みなが満点を取らなくてもよいのだ。自分の得意とする問題で、自分がこれまで積み上げてきた病棟実習や勉強の成果から、自分自身の頭で考えて、患者さんに最もよいと思える適正な医療を提供できればよい。考えに考え抜いた結果、失点したのであればそれは合否をわけない。一定水準以上の医学的素養を持ち合わせた人物であれば必然的に合格点は超え、医師になれる。そんな試験が今、112回というタイミングで息吹をあげたように感じた。

そう、『みんなちがって、みんないい』のだ。科目ごとの学習をゴリゴリやり、過去問を繰り返し覚え、といった「作業」はもちろん今後の国試対策でも必須だ。だが、それはただの「作業」でしかなく、終着点ではない。これは低学年(可能であれば5年生)のうちに修了してしまおう。受験生がやるべきことは低学年のころに築き上げた確固たる土台の上から多面的視点を持って患者さんを見つめ、考え抜く思考力を養成することに尽きる

ひどくキザな文章になってしまったが、本心から上記のように思っている。「Aという疾患でBの数値は上がるんですか? 下がるんですか?」といった質問を受けることが依然として多いが、正直どっちでもいいのだ。教科書には上がると書いてあっても、実際の患者さん(特に非定型的な症候を多く合併しやすい高齢者)では下がっているかもしれない。大切なのは上がると考える理由、下がると考える理由をそれぞれ理論的に説明できること。また、教科書的には上がるらしいが、目の前の患者さんで下がっていたら、「どうしてなのだろう?」と自分で導けることなのだ。

目先だけの学習に終止してしまっている学生を見るたびに悲しみを覚える今日このごろ。全医学部生が次世代型の学習にシフトしてくれることを願ってやまない。

最後に

112回受験生の方々、本当にお疲れ様でした。ゆっくりと休んで、next stepへの英気を養って下さい。

113回以降の受験生の方々。どんどん国試はレベルが高くなっていきます。足踏みしている時間はありません。1秒でも早く本稿で示したような王道な学習を開始し、よき医師になってください。

medu4 SCHOOLは112回国試を受けて、2018年度の講座を準備してまいります。さらに多くの方に、いっそうの満足をいただけるよう精進してまいりますので、これからもよろしくお願いします!

2018年2月11日 medu4代表 Dr.穂澄