112D43

47歳の女性。腹部膨満を主訴に来院した。20歳台からアルコールの多飲歴があり、1週間前までワイン1本/日を飲んでいた。3日前から腹部膨満が出現し食事が摂れなくなったため受診した。意識は清明。身長156cm、体重49kg。体温36.3℃。脈拍72/分、整。血圧106/60mmHg。眼險結膜に貧血を認めない。眼球結膜に軽度黄染を認める。頸部から胸部にかけて赤い放射状の皮疹を多数認め、圧迫によって消退する。腹部は膨満しているが圧痛を認めない。下肢に浮腫を認める。血液所見:赤血球325万、Hb 9.4g/dL、Ht 31%、白血球4,000、血小板7.0万、PT-INR 1.4(基準0.9〜1.1)。血液生化学所見:総蛋白5.9g/dL、アルブミン2.5g/dL、総ビリルビン3.2mg/dL、直接ビリルビン0.9mg/dL、AST 56U/L、ALT 40U/L、ALP 280U/L(基準115〜359)、γ-GTP 24U/L(基準8〜50)、アンモニア185μg/dL(基準18〜48)、尿素窒素35mg/dL、クレアチニン0.7mg/dL、Na 131mEq/L、K 3.6mEq/L、Cl 97mEq/L、α-フェトプロテイン〈AFP〉3.1ng/mL(基準20以下)。免疫血清学所見:CRP 1.2mg/dL、HBs抗原陰性、HCV抗体陰性。来院時の腹部CTを別に示す。経口摂取ができないため輸液を開始した。

初期輸液のNa+濃度(mEq/L)として適切なのはどれか。

35
77
90
130
154

解答: a

112D43の解説

 中年女性の腹部膨満。アルコール性肝障害由来の大量腹水である(画像でも腹水が描出されている)。初期輸液のNa+濃度が問われているが、果たしてこの患者にNa+は必要なのだろうか。Na+は水を引き込む性質がある。しょっぱいものを食べた翌朝、顔や手足がむくんだ経験は皆さんお持ちだろう。しかるに腹水パンパンで水がたまりまくっている本患者にNa+を投与すると、さらに水を引き込み腹水が増悪する恐れがある。
 ではどうしてわざわざ輸液をするのか。それは本文の最後に書いてある。経口摂取ができないため、だ。腹水は間質部分に水分が貯留してしまった状態であり、資産で言えば不動産のごとく流動性がない。間質部分にこれ以上水を貯め込ませず、いかに「その他の部位」へ新鮮な水を提供できるか、が輸液組成のキモとなる。
 では上記「その他の部位」とはどこだろう? 血管内と間質部の液体を総称して細胞外液、細胞内の液を文字通り細胞内液と呼ぶ。本患者では106/60mmHgと維持できており血管内液は問題ない。また間質部分には大量の液体貯留があるため、これ以上増やしたくない。ゆえに、細胞外液の補充は必要ないと判断する。結果、細胞内液を増やすような輸液組成を組むこととなる。
a 正しい。浸透圧の薄い溶液を血管内に投与することで、細胞内へ移行しやすい。
b〜e Na+濃度が高く、本患者では腹水を増悪させるリスクとなる。

正答率:19%

テーマ:経口摂取ができない非代償性肝硬変〈LC〉患者への初期輸液の組成(ナトリウム濃度)

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