2019高血圧治療ガイドラインの改訂について

日本高血圧学会より、「高血圧治療ガイドライン2019〈JSH2019〉」が発表されました。5年ぶりの改訂です。
この記事では改訂の要点と対応について説明していきます。
なお、全て診察室血圧を記載しました。家庭血圧は原則として*診察室血圧から5mmHgを引いたものとなります。
*II度高血圧やIII度高血圧では一部例外ありますが、細かすぎるためここでは割愛します。

重要な変更ポイントは降圧目標値!

2014年版では150/90mmHgとなっていた75歳以上の高齢者の降圧目標値が、2019年版では140/90mmHgまで引き下げられている(忍容性があれば130/80mmHgまで降圧する)。これは、40代から80代の幅広い年齢層において血圧が高いほど脳心血管イベントによる死亡率が増加するというメタアナリシスと、そのうち75歳以上の高齢者では130mmHg未満の降圧により腎障害に注意する必要があるという報告が元となっている。

上記の観点に照らし、75歳未満の成人、脳血管障害患者(両側頸動脈狭窄や脳主幹動脈閉塞なし)、冠動脈疾患患者、抗血栓薬服用中の患者、慢性腎臓病患者(蛋白尿陽性)と糖尿病患者は130/80mmHgを降圧目標値とする(後者2つは2014年度版から変更なし)。
75歳以上の高齢者、脳血管障害患者(両側頸動脈狭窄や脳主幹動脈閉塞あり)と慢性腎臓病患者(蛋白尿なし)は140/90mmHgを降圧目標値とする(75歳以上でも忍容性があれば個別に判断して130/80mmHg未満への降圧を目指す)

ちなみに、降圧目標の下限については臨床研究は行われていないが、介入により到達した血圧レベル別に有害事象を比較すると75歳未満では120mmHg、75歳以上では130mmHgを下回る群において有害事象の増加が認められるためそれらを下回る時は注意を要するとの記載がある。

国試を受験するにあたっては、降圧目標値は2通りとなり覚えやすくなったかもしれない。つまり、後期高齢者や両側内頸動脈の狭窄・脳主幹動脈の閉塞がある患者といった血流の悪そうな患者に対してと蛋白尿がない慢性腎臓病患者については緩め、それ以外は130/80mmHgと覚えればよい

高血圧の基準値は変わらないが、一部名称の変更

高血圧の基準値としては「診察室血圧が140/90mmHg以上」と変化がない。
ただし、名称と拡張期血圧の範囲が変更になった。これは、120/80mmHgを超えると、血圧が上昇する毎に脳心血管イベントが増加することに基づいている。以下に詳細を示す(収縮期/拡張期、の順に記載&単位省略)。


・正常血圧   120未満  かつ   80未満  (至適血圧から名称変更
・正常高値血圧 120-129   かつ   80未満 (正常血圧から名称変更、拡張期血圧80-84から変更
・高値血圧   130-139  かつ/または 80-89(正常高値血圧から名称変更、拡張期血圧85-89から変更
・I度高血圧    140-159  かつ/または 90-99
・II度高血圧   160-179 かつ/または 100-109
・III度高血圧  180以上  かつ/または 110以上
・収縮期高血圧 140以上  かつ   90未満

治療の原則は特に変化なし

まず、血圧高値の持続を確認する。
そして、生活習慣の改善が治療の基本となる。
加えて140/90mmHg以上で高リスク群の患者は薬物療法を開始する。
初診時130-139/80-89mmHgの患者で高リスク群及び140/90 mmHg以上で低・中等度リスク群の患者は生活習慣の改善を行った約1か月後に再評価し、十分な降圧がなければ薬物療法を検討する。

糖尿病を有する患者の降圧薬の選択について、微量アルブミン尿、蛋白尿がない糖尿病の場合は第1選択薬としてアンジオテンシンII受容体拮抗薬〈ARB〉、アンジオテンシン変換酵素阻害薬〈ACE阻害薬〉、Ca拮抗薬、利尿薬を設定。微量アルブミン尿、蛋白尿がある場合はARB、ACE阻害薬を選択すると明記されている。

改訂と国試過去問の抵触関係

上記のような改訂があったにせよ、国試過去問で今回の改訂と大きな抵触がある出題はみられない。

例えば、101A51は明らかな高血圧であり、糖尿病性腎症があるので高リスク群と判断でき、a生活習慣の改善(減塩)とd降圧薬の投与が正答となる。対して101G22はどうだろうか。検診で初めて高血圧を指摘されており、他に症状もないので生活週間の改善が第1になり、bとdとが正答となる。109I8では「150/90mmHg以上を高血圧の基準とする」という選択肢があるが、これも明らかな誤りであり、正解に変更はない。

ややこしいのは名称の変更である。こちらは正常高値血圧が高値血圧に、正常血圧が正常高値血圧になっており、こんがらがりそうだ。過去問では100D5で高血圧の分類が問われているが、この問題はすでに2014年のガイドライン改訂時に齟齬が発生していたため、現在medu4.com上に掲載している問題はすでに改変済みだ(最新のテキストでもこの問題は採用していない)。同じく104H35でも高血圧の分類が問われているが、これも正解に変更はない。

近年よくみられる、状況評価系の臨床問題はどうだろう? 112A61は唯一、今回のガイドライン改訂で抵触の可能性がある問題だ。2014段階の降圧目標は満たしているため、当時は「現状維持」を選ばせたが、今後同一の出題が合った場合は「降圧薬追加」が正解となる可能性もある。111A41では選択肢bで具体的な降圧目標が示されているが、特に血流が悪い背景があるわけではない50歳の男性であるため、130/80mmHgのコントロールでよい(正解は変わらず)。108G55では選択肢eで診察室血圧での降圧目標が問われているが、これも誤答であることに変わりはない。

上記のように、国試過去問との齟齬は今の所みうけられない**が、臨床の場におけるカンファレンスや学会発表の際にはきちんとした名称で呼ぶべきであるので覚えておきたい。
**medu4.com上の解説で2014年版のままの記載のところが残っている可能性はある。気づく範囲で運営側で修正しているが、もし古い記載が残っている部分を発見された方がおられたらフォーラムでその旨を教えていただけると助かる。

なお、medu4では今回の改訂に関連する高血圧について、『あたらしい内科外科②内分泌代謝』で扱っている。テキスト該当部分に追記しておくとよいだろう。
2020年度版からはテキスト本体に反映されています。2019年度版以前をお使いの方は追記をお願いします。