114回医師国家試験・総評

2020年2月8日(土曜日)と9日(日曜日)の2日間にわたり、第114回医師国家試験が施行された。ここではその動向を解説する。

時間割・出題形式

各論(A, D)、必修(B, E)、総論(C, F)の6ブロックから構成されていたのは例年通りだが、今年から2日間の出題バランスが完全に均等になった。すなわち、1限目の各論で75問、2限目の必修で50問、3限目の総論で75問、の1日200問を2日間で解くという形である。

昨年までは1日目の必修が49問、2日目が51問、のようにバランスが悪かったのだが、今年から非常に分かりやすい出題構成となり、これは喜ばしい変化と言える。

難易度

112回までは難解な問題が多かったのだが、昨年113回から標準的な問題構成となった。114回は昨年のレベルを踏襲する形での出題であった。上位レベルの学生からは「どんな難しい問題が来るかと覚悟していたが、標準的な問題が多く拍子抜けしてしまった」という声も聞こえた。つまりは、医師免許付与の判定材料となる医師国家試験としての出題難易度としては標準的、着実に学習を積み上げてきた受験生にとっての体感はやや易であった、と言える。

113回の総評で私は医師国家試験がセンター試験化している、と述べた。今年もまさしくその傾向であったと言える。つまりは、受験生全体が高得点を獲得しやすい試験であり、逆に言えば①ケアレスミスが許されない、②不勉強であると如実に他受験生に差がつけられてしまう、③難問ゲット狙いでマニアックな重箱のスミをつついた勉強ばかりしていると合格しにくい、という3つの特徴を持つ試験こそが、現代の医師国家試験なのだ。

新作・過去問の割合

大まかに行って、(A)過去問そのままor類題:(B)新作問題=7:3程度で114回の問題は構成されていた。

(A)の中にはつい最近の過去問とほぼ全く同じ問題も散見され、過去問対策の重要性の高さを物語っている。まったく同じでなくても、少し切り口が変わっただけで本質的には同じことを聞いていたり、全文が英訳されて英語の問題として出題し直されているだけだったり、と少し改題された出題もあるため、単に過去問の正答を覚えるだけではなく、深堀りしてエッセンスを吸収する能動的な勉強が欠かせない

問題となるのは(B)だ。(B)のうち、1/3は完全な新作問題で、私も聞いたことのないような知識が出題されていた。偶然臨床実習や、大学の学内講義で見聞を深めていた受験生はいたかもしれないが、全受験生が確実に知っていることを要求するものではあるまい。正直、知らなければ全く歯がたたないため、消去法を用いつつ「当たればラッキー」程度のスタンスで取り組めば良い(合否は分けない)。(B)の残り2/3は、新しいトピックを扱っているものの、これまで培った医学的な思考力をベースに類推して正答を導き出す理論的・常識的問題だ。こうした問題はたとえ知らなくても高得点を狙うことが可能となる。

以上、まとめるに、114回の国試は、(A)過去問系:(B1)斬新知識系:(B2)理論常識系=7:1:2で構成されていた。(A)で90%、(B1)で30%、(B2)で70%の問題を正答できれば、全体としての得点率は80%となる。これが合格への定石的得点方法だ。

必修問題

1日目の2限に実施されるBブロックの50問と、2日目の2限に実施されるEブロックの50問、合わせて100問は必修問題だ。必修問題は他のブロックと異なり、80%以上の得点を確保せねばならない、という絶対基準が設けられている。たとえ他の問題が満点であっても、必修問題で79%であった瞬間に不合格となるため、怖い。

114回はEブロックで難解な問題が散見されたものの、全体的には過去問や医療者としての常識的対応を中心としたマイルドな問題が多く、満点は無理でも80%を超えることは現実的な出題設定になっていたと感じた。

必修問題を恐れすぎるがあまり、逆に1問1問を深く考えすぎてしまい、正答率が高い問題を落とす受験生も多い。上述のように、マイルドな問題が大多数であることを念頭に、肩に力を入れすぎず、ほどほどに付き合っていくべきなのが必修問題である。

科目別の分析

内科外科

約170問と、全体の半分弱の出題であることはここ10年変わらない。
科目毎の出題も大きく変化はないが、1つ言うなら感染症の問題が増加している(なんと循環器や神経の出題数をも凌駕している)。

産小老

約65問であり、これも昨年とほぼ同数。
ただし、昨年非常に多く出題された産婦人科が7問減り、小児科と加齢老年学が4問ずつ増えた(誤差の範囲だろう)。

マイナー

約60問。113回と全く同数の出題であった。科目毎の出題数も±2問の変化であり、特記すべき事項はない。
しかしながら、マイナー科目は例年、科目により難易度の差が激しいことが知られる。113回は耳鼻咽喉科がかなり難しかったが、114回は耳鼻咽喉科がマイルドになった反面、皮膚科での難問が目立った

救中麻公

全科目中、No.1の出題数を誇る公衆衛生の出題数は約50問で例年通り。難易度としても、適度に時事的なトピックが織り込まれており、標準的であった。
救急は例年並み。114C63のカフェイン中毒はトピックとして興味深かった。
中毒と麻酔の出題数は3問増加(たった3問、と思われるかもしれないが、本来これらの科目は2問程度しか出ないため、3問増加して計5問になったことは大きい)。

臨床問題の問われ方の分析

臨床問題全250問を、その問われ方によって分類したのが以下の円グラフである。

すぐに分かるのは、一般知識を問うた問題が一番多いという事実。112回から医師国家試験では一般問題が100問減り、400問となった。これは「臨床傾向を強める」という意図があったとよく言われる。しかしながら蓋を開けてみれば、未だに臨床問題というお面をかぶった一般問題が数多く出題されている

次に多いのは治療・対応を問う形式。こう書くと「各疾患の細かな治療を覚えねばならないのか」と途方に暮れる受験生もいるかもしれない。しかしそこは心配無用だ。治療・対応を問う形式の多くは一般常識的な消去法で解を導くパターンが多く、本当に細かな知識が聞かれることは多くない。

そのほか、診断をつける問題や診療・検査系の問題もよく出る。特に検査に関する問題は苦手意識を感じる学生が多いところだ。この項目で扱った「臨床問題の問われ方」という観点からも学習を深められると理想的だろう。

正答率分布からの分析

以下の円グラフを見てほしい。

ピンクの部分から分かるように、114回で出題された全400問中、244問(61%)は受験生の正答率が90%以上なのである。この値は113回よりも大きく増加しており、冒頭で述べた「医師国家試験のセンター試験化」を如実に物語っている。受験生が確実に取るべき問題を、ケアレスミスなく確保してくるため、過半数の問題が正答率90%以上なのだ。

ブルーの部分の67問(約17%)をさらに確保できれば、ピンクの61%と合わせ、78%の得点となる。本稿執筆時にはまだ合格発表がなされていないが、(便宜上必修問題を除いて考えるに)78%を確保できればまず不合格になることはあるまい(現実的には残りの問題も5択なわけで、適当に選択したところで1/5の確率で正解するため、さらなる得点が取れてしまう)。

つまりは、正答率が75%未満の問題は全問捨てたところで、合格できるのが現代の医師国家試験と言える。スタンダードな問題を、スタンダードな勉強で、スタンダードに得点する。この姿勢を貫くことが肝要

次年度以降の受験生へ

115回以降の受験生で本稿をお読みくださっている方々へ、最新の国試動向に照らした効果的な学習方法を提案したい。

①早期から勉強を始める

前述のように、非常に多くの問題が過去問から出題される。しかしながら、毎年400問ずつ過去問そのものが増えていくという事実に目を背けてはならない。単純計算して、10年前の受験生に比べ、今の受験生の方が数千問分多く勉強しなくてはならないのだ。

超膨大な知識を人間の脳内にinputすることは一朝一夕には不可能である。そのため、低学年で受験する進級試験やCBTを(ゴールではなく)通過点ととらえ、早期から国試を見据えた総合的学習を開始することが推奨される。

②覚えるべき知識と導くべき知識とを線引する

御存知の通り、医学知識は膨大だ。だが、そのすべてを丸暗記する必要はまったくない。根幹となるベース知識を確実に覚えたら、あとはそこから病態等のツールを用いて導けばよい。一方、病態からの導出におぼれてしまって、定期的な知識inputが疎かになってしまうと、今度は露骨に得点力が衰えてくる。バランスが難しいところだが、成績優秀な学友やビデオ講座での講師の助言等を参考に、"丸暗記に頼りすぎず、かつなるべくコスパよく覚え込む" スタンスで学習に臨んでほしい。

③患者さんと向き合う視点を大切にする

病棟実習で医学部生は科ごとに患者さんを担当することとなる。患者さん1人1人には個性があり、主訴もまちまちだ。診断名は同一であっても、症候や検査所見、治療法が異なることも少なくない。特に我が国で比率の多い高齢者は非定型的な訴えも多く、診療がときに困難を極める。

これは国家試験でもまったく同じだ。診断名が過去問と同一だからといって、正答まで全く同じとなる保証はない。限られた時間で重要な情報をしっかり読み取って、解答を導くプロセスの中では「試験冊子を読む」スタンスではなく、「試験冊子の裏側にいる患者さんと向き合う」という視点が非常に重要となる。これから数多くの国試過去問にチャレンジする諸君にはこれを忘れないようにして1問1問を大切にしてほしいと切に思う。

114回を受験し終えた皆さんへ

医師国家試験はその対策期間から受験当日までふまえるに、世界でもまれにみる非常に過酷な試験と言えます。まず、今日のこの瞬間を迎えることのできた自分自身を褒めてあげて下さい。合格発表の結果が出ていない状況では不安も大きいかもしれません。しかし、もう答案用紙を提出してしまった今、みなさんが国試の合否に関してできることは何もないのです。合格発表までの期間は、国試までの長丁場を無事に走り抜けた皆さんに与えられた戦士の休息と言えます。せっかくなら楽しみましょう! 友人と会ったり、旅行に行ったり、趣味に没頭したり、好きな勉強をしたり。有意義な春休みを過ごして下さい。

と同時に、医師国家試験対策で培った知識はもちろん、体力や気力、勉強への取り組み方などを忘れることなく、4月からの新生活に活かして下さい。

大変お疲れさまでした。皆さんの今後の活躍に期待しています!

2020年2月9日 medu4代表 Dr.穂澄