2019年2月9日(土曜日)と10日(日曜日)の2日間にわたり、第113回医師国家試験が施行された。形式は昨年度と同様の全6ブロック(A~F)、400問であった。試験時間割や出題構成も変化はない。
現代国試の礎が作られたのは102回だ。この年から112回までの10年間に渡り、国試は難化の一途を辿った。新しい知識が出題されては受験生が対策をし、新しい形式が出題されては予備校が対策をし、とイタチごっこが続いてきたのがこの10年だ。その結果、あれもこれもと暗記すべき内容が増え、医学部生へ要求される学習量が膨化した。CBTやOSCE、卒業試験といった在学中のハードルも次々に本格化をし、医学部生に休まる時間はない。こうした莫大なストレスと留年・浪人という言葉に怯え、過度なプレッシャーを受け続けてきたのが昨今の医学部生なのだ。むろん、我々は医師という人命を扱うプロフェッショナルであるため絶えず勉強をすべきだ。だが、このところの医学部生に要求される量は不健全とも言える量であった。
113回国試では総じて端々に「もう不健全なまでのインフレ化はやめよう」という厚労省からのメッセージが読み取れた。つまり、難易度としては易化した。いや、むしろここ数回の国試が難しすぎたのかもしれない。やっと標準的な問題から構成された健全な国試に戻った、と言ってもよいだろう。
本番の極度なプレッシャーで100%の実力を出せる人間はそうそういない。誰しもが自分の受けた国試は難しく感じる。そのため総評で「易化した」と書くと、思うような戦い方ができなかった一部の受験生から「ふざけるな!」とお叱りの声をいただくものなのだが、事実は事実。ご機嫌取りのために嘘をついても仕方がない。113回国試は、到底太刀打ちできないレベルの難問はごく少数であり、大半が過去問の焼き直しまたは消去法で残せば正答に至る問題から構成されていた。
医師に要求されることは暗記スキルではない。ましてやデジタルがこれまでになく発達した現代では「記憶」という不確実な媒体より、パソコンやスマートフォンといった媒体に記録してある確固たる事実を必要に応じて引き出す方が確実と言えよう。よって、現代は単に知識が多いだけの人が活躍する時代ではない。暗記がたくさんできたからといって全く偉いわけではなく、いくら知識があってもそれを活用して社会に貢献することのできない人間は必要とされない。
では臨床医に求められるスキルは何であろうか。それは患者さんと適正なコミュニケーションがとれ、病院スタッフと連携の上、公的機関から発行されるガイドライン等を活用し、臨床業務を全うできる力、である。そして何よりも大切なのはミスを最小限にすること。ものすごく小さな話をすれば静脈採血だ。採血にはチクリという痛みが伴う。うまくいかず、何度も針を刺されるのは苦痛だ。ミスなく一発で決めてほしい。大きなミスの話は言わずとも明らかだろう。重大なミスは患者さんの死につながる。ミスをせず、限られた量の知識を応用し、足りない知識を適正な場所から引き出し、自分なりに考えて、周囲の人々と協調して業務を全うすること、これが何より日々の臨床業務では求められる。
そういった意味で113回国試は「ミスを最小限にするよう要求された試験」であったとも言える。大学受験で例えるならセンター試験だ。アクロバティックな知識をたくさん知っているのではなく、当たり前の知識を当たり前に回答することが要求された。ここでいう「当たり前の知識」とは全受験生にアクセス可能な知識のことを意味する。とある本にしか載ってなかったり、とある講座を受講しない限り巡り会えないような知識など必要ない。過去問で出題されている事項を包括的に自分の頭の中でまとめ上げ、それを柔軟にアウトプットできるようにしておけば十分なのだ。
むろん114回以降も今年のような出題が続くかどうかは分からない。が、だとしても今後の国試を受験される方々に声を大にして言いたいのは、「当たり前の知識を当たり前に回答すること」と「思考停止せずに自分の頭を使って考えること」の重要性だ。わざわざ大穴を狙いに行く必要などない。低学年の頃から丁寧に継続してきた学習の成果を平常心で発揮すれば十分に合格可能だ。焦らず、着実に学習を進めてほしい。
最後になりましたが、113回受験生の皆様、お疲れ様でした。多くの方々には画面〈モニター〉を通じての出会いでしたが、ともに時間を共有し、学びあったことに変わりはありません。大変お世話になりました。研修が始まるまでの約1か月半は思う存分羽を伸ばし、休養をとってください。4月からの皆さんの活躍を心よりお祈りしています!
そして114回以降を受験予定の皆様へ。「当たり前の知識を当たり前に」とはいえ、膨大な医学領域、そして国試の出題範囲をまとめるのは非常に時間がかかります。早期から学習を開始しましょう。また、単に知識が多いだけでは現代国試は戦えません。日頃からいろいろ思いを巡らせ、考える習慣をつけて下さい。medu4も113回国試を受けて新年度に向け教材改訂をし、微力ながら受験生のサポートができれば幸いに思います。ともに頑張りましょう!
2019年2月10日 medu4代表 穂澄
以下に113回国試の全400問を科目別に分類したチャートを示す。
赤い色で示した全10分野だ。合計出題数は166問と増加(112回は159問)。循環器>呼吸器>神経が出題数Top.3となっている。中でも神経の出題数は大きく増加した。一方、内分泌代謝と肝胆膵は出題数が減少した。
全体的にスタンダードな良問が多い。過去問をベースに、患者さんの臨床像をしっかり頭の中でイメージできるようにしておけば十分な得点が可能だ。
上記チャートでは黄色で示している。112回では産婦人科と小児科が約25問ずつとバランスを保っていたが、今年は産婦人科が圧倒的に多く、小児科は少なかった。加齢老年学の出題数は減少し、安定した出題となった。
次年度以降もまったく同じ分布になるかどうかは不明だが、少なくとも産婦人科(全科目中No.2の出題数)が合格の鍵を握っていることは紛れもない事実だ。産婦人科は苦手とする者と得意とする者が大きく分かれる分野だ。繰り返し原理原則に遡って学習し、得点源にしてほしい。
緑で示した7科目。112回は整形外科が3問しか出ない、など偏りが大きかったが、今年は全科目バランスの取れた出題数といえる。マイナー科全体の出題数は61問であり、昨年とほぼ同数であった。難易度としては耳鼻咽喉科が鬼のように難しく、半分程度の問題で受験生の正答率は壊滅していた。一方の精神科はマイルドな問題が多く、受験生の精神衛生には優しかったと思われる。
救急の出題は大きく減った(20問→14問)。ここ数年、受験生(特に必修を苦手とする者)を困らせてきたAirway確保周辺の微妙な問題は姿を消し、クラッシュ症候群や誤飲・誤嚥、トリアージといったワンパターンの出題が多かった。
中毒は1問(シンナー中毒)、麻酔は1問(悪性高熱症)。いずれも出題としては斬新だったが、いかんせん出題数が少なすぎる。
全科目中、出題数No.1はもちろんこの科目だ(約50問)。過去問そのままの出題と、斬新だが消去法でとりあえず得点は確保できる問題、そして斬新で自信をもっての正答は困難かもしれないが昨今のトピックとして次回以降の国試受験生に押さえてほしい問題、の3者がバランスよく出題されていた。
周術期についての出題、112回でも多く出題がみられた栄養についての出題、臨床判断・評価を行う問題等をここに分類している。一定数の問題慣れが重要な分野であり、差がつくところだ(medu4では主に『特講シリーズ』で対策している)。なお、輸液もこちらに分類しているが112回と比べると出題数は減り、マイルドな問題が多かった。
以下に113回国試の全400問を正答率別に分類した円グラフを示す。
円グラフ内の%と、正答率の%が重複して初見だと読み方がわかりにくいかもしれない。例えば、400問中51%に該当する204問は90%以上の受験生が解けたことを意味する。
112回国試では90%以上の正答率の問題数は184問(400問中の46%)であった。それに対し、113回は204問(400問中の51%)と20問も増加している。これは冒頭で示したように、113回は点の取りやすいスタンダードな問題が多かったということを意味する(むろん、受験生のレベルが向上していることも一因であろう)。
113回国試で成績が振るわなかった学生(一般臨床の得点率が65%未満)を分析すると、当然ながら上記円グラフの赤色部分(90%以上の学生が確保できている問題)の失点率が高い。逆に、80%以上を一般臨床で確保できている上位層はこの赤色部分をほとんど落としていない。
上記円グラフの赤色部分と青色部分を全問正解すると400問中77%の得点を確保できる。むろんここでは議論を簡単にするため、必修問題と一般臨床問題をまとめて議論してしまっているが、イメージとしては正答率75%以上の問題を確実に得点すればまず合格と言える(医師国家試験は5択であり、全く分からなくても正答率74%以下の問題の一定数は正答してしまうことも加味すればさらに合格可能性は盤石となる)。
円グラフ内、オレンジと黒色を合わせた部分が正答率60%未満の問題である。驚くことなかれ、たった14%(約50問)しか出題がない。模試では「あなたが間違えた問題で正答率が60%以上の問題を解き直そう」と指導されることが多いが、現代国試においてはそもそも正答率60%未満の問題がほとんど出ていないという驚愕的事実が浮かび上がった。
正答率分析をしてみて、改めて医師国家試験の大学入試センター試験化現象が強く浮かび上がってきた。むろん、次年度反発して難しくなる可能性も否めない。が、細かすぎる事項を勉強して覚えたところで国試が終わったらその大半は一生使わない。数学で例えると分かりやすいかもしれない。筆者も高校時代に微分積分や複素数平面の勉強をしたが、その後数十年間一度もこれらの知識を使ったことがない。勉強するという過程は大切だが、人生はそんなに長くない。国試で出題される可能性が高いならまだしも、おそらく出ないであろうかつ一生使わない事実の勉強に貴重な時間を費やすのはもったいない話だ。
受験生の9割が確実に得点してくるであろう有名事項を何度も繰り返し勉強し、確実に本番でoutputできるようにシミュレーションしておくこと。これが次回以降の国試対策として最も重要と考える。
medu4でも2019年度の教材改訂ではより一層「知らなくてよいこと、知っておくとbetterだが都度導けばよいし優先順位で劣ること、絶対的に覚えておかねばならないこと」の線引をし、講義内でも強調していく所存だ。こうすることで忙しい医学部生活を送る受験生のみなさんに国試へ向けたさらなる最短コースをご用意できるものと確信している。