IEのよくあるストーリーとしてジェット血流を起こしうる心疾患(本問MR)の患者さんが、カテーテル治療や歯科治療によって細菌が血液に入り込み、心内膜にユウシュを形成する、ということがあると思います。今回本問のように「今までに認められなかった心雑音」が聴取されたという例は、易感染の状態でIEが生じてからMRがとなったということですが、このような例は多いのでしょうか。
IEは生来健康な方でも罹患することはありますが、多くの場合は、例えば僧帽弁逸脱症〈MVP〉であったり、弁の手術後であったりと、弁に何らかの傷や形態異常があり菌が付着しやすい状態の患者さんが罹患します。心内膜に疣贅(ゆうぜいと読みます)が付くことで、弁がきちんと閉まらなくなり、僧帽弁逆流を来たします。
お答えになっていれば幸いです。
w.james 様
【多いのでしょうか?】
『多いです。』
【本問のように「今までに認められなかった心雑音」が聴取されたという例】
『新規に心雑音が出現した場合、必ず感染性心内膜炎(IE)を疑います。(注1)』
【易感染の状態でIEとなる例は多いのか】
『日本では少なくはないみたい。』
まず、IEの基礎疾患としては逆流の多い弁膜症、先天性心疾患、IEの既往、心筋症が頻度が多いです。(注2)
易感染性が原因でIEとなる頻度は上記の基礎疾患に比べ、やや少ないです。(注3)
一方で、弁膜疾患の無いIEは10/848例と稀という報告もあるようです。(注4)
しかしながら、近年の傾向として易感染性を背景にしたIEが増加しています。
また、糖尿病ではIE発症のリスクは有意に高いと報告されています。(注5)
→https://www.jhf.or.jp/pro/hint/c7/hint004.html
【IEで僧帽弁閉鎖不全(MR)になる例は多いのか】
『近年の報告では、MRが1番多いみたい。』↓(注3)
一般に右心系IEは5~12%との報告があり、左右の合併も含め左心系IEが多いです。
僧帽弁が60%近くを占め、次いで大動脈弁が20%、肺動脈弁と三尖弁は稀です。
基礎疾患に伴うIEでは、基礎疾患に伴う病変が考えられます。
また、必ずしも病変は1箇所のみではなく、複数弁がIE全体の20%に見られます。
右心系IEではほとんどが三尖弁の障害との報告もあるようです。(注5)
【補足】
近年、易感染性や医原性を背景にしたIEが増加しています。(注6)
IEは発熱を伴わないことが20%近くあり、初発症状の半数が中枢神経症状 (塞栓症など)です。(注7)
心臓疾患が背景に無くても、急性で致死的なIEを常に疑います。
血管に何らかの処置を受けている場合や易感染性の背景がある場合は、特殊なケースである右心系IEも注意します。
【参考資料】
注1 感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン (2017 年改訂版)p8
注2 感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン (2017 年改訂版)p48-49
注3 臨床病理 60巻12号 Page1121-1125(2012.12)
注4 糖尿病 55巻5号 Page372(2012.05)
注5 Journal of Diabetes and its Complications
Volume 21, Issue 6, November–December 2007, Pages 403-406
注5 超音波検査技術 40巻5号 Page520-525(2015.10)
注6 感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン (2017 年改訂版)p10-11
注7心エコー 13巻4号 Page440-447(2012.04)
エビデンスレベルは偉い人が言ってたよ〜くらいで流してください。
注1,2,6→感染性心内膜炎ガイドライン2017改訂版http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2017_nakatani_h.pdf
【参考問題】全てIEです。
初発症状が塞栓症のIE(113D74)↓
113D74
M弁ope後にAR(111D49)↓
111D49
糖尿病+維持透析でMR(110A23)↓
110A23
高齢者でMR(108H37)↓
108H37
中年女性でAR(107A32)↓
107A32
口腔周囲処置後にMR(106I42)↓
106I42
易感染性の背景で右心系と左心系どちらが多いかの報告は見つけられませんでした。
個人的には右心系の頻度が増えると思うのですが。。。
右心系IEの報告が少ないためだと考えます。
参考になれば幸いです。
>> こち様
>> かずまる様
丁寧なご回答ありがとうございます。
国試の過去問でもそのような例が何問も問われていたようですね。大変勉強になりました。
また発熱を伴わないIEがそんなにもあるとは、目から鱗でした。
ありがとうございました。
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