109回医師国家試験・総評

2015年2月7日から9日の3日間にわたり、第109回医師国家試験が施行された。現行の国家試験は102回で形式がほぼ固まり、108回までの7年間、同形式で出題され続けてきた。109回も108回をほぼ踏襲する形で実施され、形式面での受験生の動揺は無かったと言えよう。なお、2018年に実施される112回からは現状の3日間の実施から2日間の実施へと短縮され、出題数も400問へ減少することが方針として打ち出されている。つなぎとなる110回と111回はこれまで同様の構成が予想されるため、入念な過去問対策が要求される。109回医師国家試験を一言で言い表すなら、「盤石」である。特に奇抜な問題もなく、医学知識が確実に得点に反映される良問から構成されていた。80%という絶対基準を要求する必修問題にも失点を誘発するような悪問はなく、本番での番狂わせが起こりにくかった(過去には医学とは関係のない単なる日本語の読み違え等で辛酸をなめた受験生もいたが、それと比べると良心的な出題になった)。これだけの良問が揃うとなると、現在となっては確かに3日間、500問という大量の出題は不要なのかもしれない。出題数を増やせば増やすほど、受験生の体力的負担は増えるが、その分1問あたりの重みは軽減され、不用意なミスで不合格となってしまう確率は減る。真に優秀な人材が医学とは関係のないミスで1年間医療の現場に出るのが遅れるのは国にとって不利益である。ゆえに大量な問題数を用意していたのがこれまでの国家試験であった。ただし、現在のように良問のみで構成された出題であれば出題数が100問程度減っても、試験としての識別能は担保されると言える。「盤石」という言葉には「安定」の他、「堅固でびくともしない」という意味もある。109回国家試験が良問から構成されていたからといって、それは決して簡単だったり、基本問題が多かった、というわけではない。当然ながら難問も多く、どれだけ深く考えられるか、思考力が試される問題も多かった。110回以降の指標とすべく、以下、具体的に振り返っていこう。

分野ごとの出題数

全500問の内訳を以下に示す。

内科が4割強、小児産婦・マイナー・公衆衛生がそれぞれ15%程度といった分配で例年と大差はない。マイナー領域は107回まで90問前後出題されていたが、108回から減少傾向にある。「その他」という項目には、救急・麻酔・外科・栄養・老年病・中毒・医学素養が含まれる。注意して欲しいのは内科をすべて正答しても4割程度しか得点できない、という事実である。確かに内科は全分野にその「考え方」を活かすことができ、医学の礎と呼べる領域なのであるが、あまりズルズルと内科の学習を引きずってしまうと得点につながらない。理想としては6年生の夏前までにある程度、内科の目処を立てておくべきである。医師国家試験はオールラウンドプレーヤーが勝利する試験である。特定の分野に強くても、満遍なく得点できないと辛い。もう1点、上記「その他」の領域のウェイトが近年は増加傾向にあることに留意して欲しい。1つ1つの領域の出題数は多くないため、系統的な学習が困難なのであるが、高齢化する現代の日本を反映し、老年病、高齢者の非定型的な主訴、入院から退院の流れ、入院中の栄養管理と急変、といったテーマでの出題が散見される。以下の問題が好例だ。→109B25

科目ごとの出題数

①では大きなくくりで分野ごとの出題数を見てきたが、ここでは科目ごとの出題数を見てみたい。

赤が内科、緑がマイナーである。内科では消化器・循環器・神経が、マイナーでは精神科と泌尿器科の出題が多い。そして産婦人科は単独での出題数もかなり多い。一瞥して気づくのは公衆衛生の出題数が圧倒的に多いという事実。1科目あたりのコストパフォーマンスは抜群であるため、直前期は時間をとって入念に対策したい。とはいえ、公衆衛生の出題は一般問題が大半であるため、この66問を仮に全部押さえたとしても、臨床や必修で失点してしまうと合格には届かない。あまり見かけない分類かもしれないが、「医学素養」という項目で17問の出題がある。これは常識的センスさえ持ち合わせていれば普通は正答できる問題であり、いわゆる「サービス問題」である。以下のような問題が好例で、必修問題に出題が多い。→109C5こうした問題を公衆衛生の出題とする参考書が多いが、この向きに筆者は反対である。別に勉強しなくても常識で取れるサービス問題をあえて勉強する必要はない。

難易度ごとの出題数

109回の全500問につき、難易度を10段階に割り振った。Lv.1が最も平易な問題(ほぼすべての受験生が正答可能)で、Lv.10が最難関である。

109回の合格基準は、一般問題が64.5%(129問)、臨床問題が67.5%(135問)、必修問題が80%(60~87問)であるため、簡単に言ってしまうと最大で351問を正答すれば合格できる計算となる(必修問題は1点のものと3点のものがあるので幅が出ている;うまくすれば最小で324問の確保で合格可)。この事実を上記の円グラフに照らすと、Lv.3の問題まで確保できれば大丈夫と言える。むろん、人間はケアレスミスを犯すため、Lv.1の問題も数問落とすであろう。が、消去法や勘によりLv.4~6の問題も数問確保できることを考えると、やはりLv.3までの問題を落とさないようにすることが重要である。ではLv.3の問題はどのような問題か。以下に3問ほど挙げておこう。勉強を始めて間もない方にとっても、そんなに難しい印象は受けないはずだ。これは国家試験に難問対策は不要、ということ。基本的な問題を確実に落とさずに対処することが肝心だ。ただ同時に、このレベルになってくるともはや常識的レベルでは太刀打ちできず、過去問対策を中心とし、ある程度の勉強が必須であることにも気づいてほしい。Lv.3問題の例 →109D51109G31109I40さて、Lv.10の問題とはどんな問題なのか。興味を持っている方も多いであろう。以下に1問挙げておくが、難問であり、捨て問と言っても過言ではない。こうした捨て問を見極める眼力を養っていくことも重要である。Lv.10問題の例 →109B32

新作問題・プール問題

以下の2問を解いてみてほしい。 →109A13109B26109A13は2013年に4類感染症に追加されたSFTSウイルスが題材となっており、109B26では膵臓に異所性移植が可能であることを出題している。両者とも近年のトピックに該当し、国試では初めて出題された。こうした問題(以下、新作問題と呼ぶ)は大学での講義や実習、または新聞等を通じて学ばねばならず、過去問を対策していても得点は不可能である。一方、以下の問題はどうだろうか。解いてみてほしい。 →109G38ESWL後の合併症だが、受験生の正答率は悪い。しかし、このテーマは101H50で出題されている。破砕した結石が尿管につまった、という事実が分かっていれば、109回でも答えに辿り着いたはずだ(eの誤答が多かったが、尿管の障害であるから、「直後」に腎後性腎不全が起こるはずがない;そこまで見えてくれば本問で「直後」と明記してある理由も解せる)。こうした、過去問の視点を応用して解ける問題をプール問題(ほぼ過去問そのままの出題)と対比して、筆者は「インスパ問題」と呼んでいる(inspireされた問題、の意)。気になるのは、新作問題:インスパ問題:プール問題の比率である。109回でその比はおよそ1:20:10であった。純粋な意味での新作問題(言ってしまえば「知らなければ一巻の終わり」問題)は500問中16問しか出題されていない。その他の問題は過去問ほぼそのままか、何問かを組み合わせて考えれば正答に至る問題であったのだ。もうお分かりであろう。いたずらに新しい知識を求めるのではなく、過去問をしっかりとこなそう。そして、単なる過去問の暗記ではなく、インスパ問題まで確実に対応できるよう、深くまで踏み込んで学習しよう。これが現在の国家試験の一番の攻略法である。ただし、机の上でひたすら過去問を解き続けていても頭には入ってこない。百聞は一見にしかず、とも言う。講義や臨床実習で五感を通じてinputすることでさらに理解が進むであろう。

合格発表

合格発表の結果を示す。

 

(採点除外問題のリンクはこちら:109B13, 109B14, 109C11

108回と比べ、合格に必要な得点率はほぼ変化ない(一般問題は-0.8%、臨床問題は+1.3%)。合格率は0.6%上昇して91.2%となった。107回から2年連続で合格率の上昇があり、過去40年間では最高値をマークした。傾向も合格率も抜群の安定性がみられており、110回の受験生にとってはビッグウェーブと言えよう。

まとめ・110回へ向けて

そろそろまとめに入ろう。今回の国家試験から言えることを箇条書きにしてみる。

  ・盤石な安定期に入り、出題の大半が良問となった。
  ・500問すべてを正答する必要はなく、平易な問題から350問程度確保すれば合格できる。
  ・正答率の低い難問は100問程度。残りの400問は基本的な出題。
  ・超斬新な問題はごく一部であり、大半が過去問のエッセンスを使用して正答可。
  ・とはいえ、単なる過去問の丸暗記では太刀打ち出来ない難しさがある。

現状、ほぼすべての受験生が均一に大学や予備校の講座を受け、市販の過去問集で演習を行ってから国試に挑む。にもかかわらず、90%の人が合格し、10%の人は不合格となってしまう。この差は生まれ持っての頭の良し悪しでは断じてない。過去問を過去問としてだけ解き、ただの丸暗記に終わらせてしまうのか、一歩も二歩も踏み込み、その本質を追うのか、の違いである。自分の頭を使って真に考える時間を確保したい。深くまで考える習慣がつくなら、1問に1時間を使っても全く惜しくない。中途半端に1問1分で60問を解き流すよりはるかに有用である。110回対策としては109~107回の直近3年分を中心とし、100回以降の10年分を入念に検討することをオススメする。当、medu4のホームページでも100回以降の5,030問をすべて閲覧できる。5,030問と聞くとすごい量に思えるが、1日10問で500日、1日20問でも250日で完了できる。一歩一歩、着実にがんばってほしい。臨床実習と医師国家試験対策がうまくリンクし、医学部生がムリ・ムダの無い学習を行うことで日本の医学教育・医療水準がさらなる飛躍をとげることを願ってやまない。