108回医師国家試験・総評

2014年2月8日から10日の3日間にわたり、第108回医師国家試験が施行された。108回を一言で言うなら「鬼」である。1問1問の難易度もさることながら、その構成までが鬼畜の域に到達している。さらには天候までが鬼の形相を呈し、医師国家試験の到来を待ちわびたかのように全国各地で雪が降った。その影響で、東北会場の一部では試験開始が遅れるというハプニングもあり、受験生の心理的プレッシャーは並大抵でなかったはずだ。『構成が鬼』とはどういうことか。国家試験はご存知の通りAブロックからIブロックの9ブロック、計500問から構成される。そして、3日間の試験で、各日3ブロックずつを消化する運びとなる。この9ブロック内で難易度が均一ならばよいのだが、まれに難しい問題が1ブロックに固まって出題されることがある。それが、108回の場合、AとIブロックだった。つまり、雪の中、身も心もガチガチな状況で試験会場に到達した受験生をいきなりの難問集合ブロックで打ちのめした挙句、最後の最後、国家試験から開放される寸前のブロックでまた難問ラッシュを浴びせ、意気消沈した状況で帰宅させる、という構成だったというわけだ。そのため108回の受験生からは;

  • 「暗く狭いトンネルを3日間続けて匍匐(ほふく)前進しているかのようだった」
  • 「医学的知識を問う試験ではなく、メンタルの強さを測る実技試験だった」
  • 「試験が終わった後も、心が晴れず、卒業旅行を楽しめなかった」

といった声が聞かれた。また、事実かどうか不明だが1日目が終わった段階で不合格を確信し、2日目以降試験会場に行けなかった受験生もいたらしい。筆者も当時リアルタイムで国試を見ていたが「おいおい、これはヤバイぞ」と冷や汗をかいた覚えがある。とはいえ、そうした試験が実際に行われたことに間違いはない。こうした無理難題にぶちあたってしまった場合、どう対応したらよいのか。以下、108回を丁寧に振り返る中で考察していきたい。

分野ごとの出題数

全500問の内訳を以下に示す。

大雑把にみて内科が45%、小児産婦・マイナー・公衆衛生がそれぞれ15%程度といった分配となっている。特記すべきなのは、内科・マイナー・公衆衛生の出題数が減少し、その分「その他」の割合が3%増加したことである。「その他」というくくりは救急・麻酔・外科・老年病・中毒、といった分野を統合したものであり、高齢化などの現代事情と医学の多様化に従い勢力を伸ばしてきているものと考えられる。同時にマイナー領域の出題数減少は目を見張るものがある。従来90〜100問/年の出題があったが、今回は80問を割ることとなった。従来の国家試験は「内科ができれば合格できる」とされていたが、そういう時代は過去のものとなった。今や医師国家試験は総合力とバランスが求められる試験といえる。

科目ごとの出題数

①のくくりを細分化し、科目ごとの出題数を示す。

内科領域では消化管・循環器・内分泌代謝・神経が、マイナー領域では眼科・精神科から多く出題されている。そして公衆衛生の出題が全科目の中では最多となる。が、これは例年のことであり、驚くに値しない。107回では産婦人科の出題数が30問程度しかなく、異例の少なさであったが108回では40問弱、と従来通りに戻った。これは健全なことで、望ましいといえる。①で述べた「その他」の分野であるが、救急からの出題が目覚ましい。腎や血液、免疫といったメジャー分野の出題数を軽く凌ぐ。なお、一番右端に紫色で示した「医学素養」とは医療面接などの必修領域に多い、常識的センス内で解答可能なものであり、確実に得点したいサービス問題である。

108回のトピック

例題に誤植!? 一般ブロックに臨床!?冊子に誤植、というのはいつの時代にもあるもので珍しいことではない。が、108回ではあってはならない部分に誤植があったのだ。以下①を参照いただきたい。アニオンギャップは138-25-95であるから、18のはずだ。だが、この例題では答えが12となっている! ......よくよく考えて見れば例題が間違えている、っていうのはすごいことではなかろうか。マナーの講師をお招きしたら時間に遅れてきたようなもので、あるいはフライトアテンダントが機内のトイレでこっそりタバコを吸っていたようなもので、要はその試験の存在自体が疑わしくなってしまう。ではこの誤植、いつから発生したのか。107回の冊子が②。なんと答えは合っている! 問題設定が同じにもかかわらずどうして解答だけ変えてしまったのか。歴史に残る七不思議と言えよう。余談だが、後日厚労省のホームページで公開された際の冊子が③。クロールの値をいじって、強引に正答を12に持っていっている。「例題の誤植を訂正」と一応示してあったので、誠意は感じる対応であった。

合格発表

合格発表の結果を示す。

 

(採点除外問題のリンクはこちら:108D13, 108E32, 108F23

107回と比べ、合格に必要な得点率は大きく下がった(一般問題は-4.2%、臨床問題は-5.3%)。合格率を保つために止むなく合格ラインを下げたわけであり、裏を返せば108回はやはり難問がそろっていた、ということとなる。だが同時に、一般問題も臨床問題も65%の必要得点率を保っており、全国的な受験生のレベル向上が読み取れる。

まとめ

まとめよう。各論での難問出題が多かったため、AとIブロックがたまたま難しく構成されてしまったが、総論や必修には基本的な出題が多く、総合力で立ち向かうべき試験だった、というのが108回の正しい認識と言える。また、一見難問にみえる問題も、選択肢を吟味して消去法で正答に至ることは十分に可能であった。合格率も90.6%と例年並みであり、難しい問題が出たら出たなりに、合格基準は低下し、試験としては成立する、ということが分かる。今後の国家試験でも、108回のようなセットが出現する可能性は否めない。ただし、難しい問題は誰にとっても難しいわけであって、正答率は下がる。受験生各人が学習の成果を存分に発揮し、取れる問題を確実に正答していけば合格は十分に可能であり、試験期間を通じて強い精神力を保ち続けることが求められる。結局は「マイペースに1つ1つ丁寧にこなす」という王道な学習が功を奏するといえ、次回以降の受験生もコツコツと頑張って欲しい。当、medu4のサイトが少しでも精神的支えになることを祈っている。