117D53

69歳の男性。びまん性大細胞型B細胞リンパ腫に対する治療のため来院した。30年前から高血圧症と慢性腎臓病で自宅近くの診療所に通院していたが、胸部エックス線写真で縦隔腫瘤を指摘された。2週間前に胸腔鏡下に縦隔腫瘤の生検を受け、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫と診断され、抗癌化学療法を受けるため紹介受診した。身長168cm、体重61kg(3か月で5kg減少)。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦、軟で、肝・脾を触知しない。血液所見:赤血球451万、Hb 12.7g/dL、Ht 40%、白血球8,400、血小板36万。血液生化学所見:総蛋白6.6g/dL、アルブミン3.5g/dL、総ビリルビン0.8mg/dL、AST 25U/L、ALT 19U/L、LD 286U/L(基準120~245)、尿素窒素38mg/dL、クレアチニン2.1mg/dL、尿酸8.9mg/dL。心電図に異常を認めない。
この患者で治療開始前に行うべき検査はどれか。2つ選べ
骨髄検査
呼吸機能検査
心エコー検査
腹部超音波検査
頸部~骨盤部造影CT

解答: a,c

117D53の解説

【プロセス】
①69歳の男性
②びまん性大細胞型B細胞リンパ腫に対する治療
③30年前から高血圧症と慢性腎臓病〈CKD〉(クレアチニン2.1mg/dL;年齢と性別と合わせて算出するとeGFRは25.6となり、CKDの重症度分類ではG4)
④呼吸音に異常を認めない
☞腎機能低下(③)のある高齢者(①)の非ホジキンリンパ腫(②)。治療開始前の検査が問われているが、そもそもその「治療」とは具体的に何か考えよう。非ホジキンリンパ腫に対する基本治療はR-CHOP(リツキシマブ、シクロフォスファミド、ドキソルビシン〈アドリアマイシン〉、ビンクリスチン、プレドニゾロン)である。

【選択肢考察】
a 正しい。骨髄浸潤の有無を確認したい。
b 呼吸機能検査は閉塞性や拘束性の呼吸障害を調べるものである。本患者では喫煙歴もなく、④より呼吸器疾患の存在も考えにくい。また、これから行う治療により予想される合併症として閉塞性や拘束性障害が存在するわけでもなく、必要性に乏しい。
c 正しい。まずは113F74を振り返ってほしい。R-CHOPのHに該当するドキソルビシン〈アドリアマイシン〉には心毒性がある(113F74でも「1年前の心エコー検査は正常」とした上で、「今回の来院時の心エコー検査で〜」と対比している)。本症例でも治療開始前に心エコー検査を実施しておくことで、万が一、後日心筋障害が発生した際の比較対象とすることができる。が、本文には「心電図に異常を認めない」と心臓から目を背けさせるような記載もあり、本選択肢を試験当日に選べた者は3割弱となった。もちろん心電図と心エコー検査は趣旨が異なるため、たとえ「心電図に異常を認めない」と書いてあったからといって、心エコー検査をバツにする根拠には全くならないのだが、それは後出しジャンケン的な議論であろう。テキストや参考書、インターネット等の媒体が豊富に整っている環境での議論と、自分一人の孤独な戦いとなる医師国家試験の当日では全く様相が異なる。そんなこんなで、本問は難しすぎ、採点除外問題となった。
d 悪性リンパ腫の広がりを確認するため、(CTやPETならまだしも)ピンポイントに腹部超音波検査をすることはない。
e 頸部~骨盤部造影CTにて悪性リンパ腫の広がりを確認したい。が、本患者では腎機能低下があるため、造影検査が★禁忌★となる。試験当日、なぜか本選択肢を選んでしまった受験生が半分以上。半数以上が禁忌を踏む、という異例な事態も本問を採点除外にせざるを得なかった理由の1つと推察する。

正答率:7%

テーマ:びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の抗癌化学療法前に行うべき検査

フォーラムへ投稿

関連トピック

なし