117D29

60歳の女性。労作時息切れを主訴に来院した。15年前から寒冷時に手指の蒼白化や腫脹を自覚していた。9か月前から両足部の冷感としびれ感が出現し、6か月前に右母趾尖に潰瘍が出現した。同じころから階段や坂道を昇る際の息切れを自覚するようになり、増悪したため受診した。既往歴に特記すべきことはない。喫煙歴と飲酒歴はない。内服薬はない。身長153cm、体重51kg。体温36.4℃。脈拍92/分、整。血圧124/92mmHg。呼吸数16/分。SpO2 は測定不能。顔面や四肢に多発する斑状の毛細血管拡張を認める。両手指は腫脹し、顔面と両手指から手背に軽度の皮膚硬化を認める。両足趾部と足底にチアノーゼ、右母趾尖に潰瘍を認める。頸静脈の怒張を認めない。心音はII音の亢進を認める。呼吸音に異常を認めない。腹部は平坦、軟で、肝・脾を触知しない。四肢に筋力低下を認めない。下腿に軽度の浮腫を認める。血液所見:赤血球420万、Hb 11.6g/dL、Ht 39%、白血球5,500、血小板15万、PT-INR 1.0(基準0.9~1.1)、APTT 29.2秒(基準対照32.2)、血漿フィブリノゲン270mg/dL(基準186~355)、Dダイマー0.6μg/mL(基準1.0以下)。血液生化学所見:ALT 28U/L、AST 32U/L、LD 192U/L(基準120~245)、CK 59U/L(基準30~140)、クレアチニン1.0mg/dL、尿酸5.8mg/dL、脳性ナトリウム利尿ペプチド〈BNP〉266pg/mL(基準18.4以下)。CRP 0.2mg/dL。胸部エックス線写真を別に示す。
息切れの原因として考えられるのはどれか。
間質性肺炎
肺高血圧症
収縮性心膜炎
慢性閉塞性肺疾患
心アミロイドーシス

解答: b

117D29の解説

【プロセス】
①15年前から寒冷時に手指の蒼白化や腫脹
②9か月前から両足部の冷感としびれ感
③6か月前に右母趾尖に潰瘍が出現
④同じころから階段や坂道を昇る際の息切れ
⑤SpO2 は測定不能
⑥顔面や四肢に多発する斑状の毛細血管拡張
⑦両手指は腫脹し、顔面と両手指から手背に軽度の皮膚硬化
⑧両足趾部と足底にチアノーゼ、右母趾尖に潰瘍
⑨心音はII音の亢進
⑩脳性ナトリウム利尿ペプチド〈BNP〉高値
⑪胸部エックス線写真にて肺動脈陰影の亢進
☞①〜③・⑥〜⑧(Raynaud現象や皮膚硬化)からは全身性硬化症〈SSc〉を疑う。④⑪からは肺高血圧症が読み取れ、⑨(おそらくIIpの亢進)も合致する。⑩より心臓にも負荷がかかっているようだ。なお末梢循環不全がある場合、皮膚血流が低下し、SpO2が測定不能となることがある(⑤)。

【選択肢考察】
a 聴診におけるfine cracklesやエックス線におけるスリガラス影がみられておらず、間質性肺炎は否定的。
b 正しい。肺高血圧症はSScに合併しやすく、息切れの原因となる。
c 聴診における心膜ノック音やエックス線における心膜の石灰化がみられておらず、収縮性心膜炎は否定的。
d 喫煙歴がなく、エックス線における肺の過膨張がみられておらず、慢性閉塞性肺疾患は否定的。
e SScに合併しやすい疾患ではないため、心アミロイドーシスでは手指の変化や潰瘍形成といった臨床文の全体像が説明つかない(たまたま合併している可能性はもちろんゼロではないが、それを言ってしまうと国家試験の問題として成立しない)。

正答率:96%

テーマ:肺高血圧症の診断

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