115C52

72歳の女性。悪心を主訴に来院した。3年前に後腹膜の径10cmの腫瘤を開腹生検して濾胞性リンパ腫と診断された。癌薬物療法を受けて寛解を得たがその1年後に腫瘍の急速な再増大を認め、再発と診断された。薬物療法を受け、腫瘍は縮小したが消失はしなかった。薬物療法の中止を希望し在宅療養中であった。2か月前から腰痛が出現しNSAIDを内服したが増悪するため、悪心に対する対策を行った上でオピオイドの内服をはじめ腰痛は消失した。1か月前から下肢浮腫が出現し、1週前から腹部膨満感、腹痛とともに食欲不振が出現したという。昨晩から悪心も出現したため受診した。意識は清明であるが顔面は苦悶様である。身長156cm、体重41kg。体温37.5℃。脈拍96/分、整。血圧108/68mmHg。眼瞼結膜は貧血様である。両鼠径に2〜5cmの腫大したリンパ節を多数触知する。腹部は著明に膨隆して腸蠕動音は減弱している。両側下肢に浮腫を認める。血液所見:赤血球345万、Hb 9.2g/dL、Ht 28%、白血球9,000、血小板9.5万。血液生化学所見:総蛋白5.2g/dL、アルブミン2.7g/dL、総ビリルビン0.6mg/dL、AST 24U/L、ALT 13U/L、LD 1,120U/L(基準120〜245)、尿素窒素28mg/dL、クレアチニン1.7mg/dL、尿酸10.2mg/dL。腹部単純CTを別に示す。

最も適切な対応はどれか。

腹水穿刺
降圧薬投与
開腹腫瘍切除術
アルブミン製剤投与
オピオイドスイッチング〈オピオイドローテーション〉

解答: e

115C52の解説

【プロセス】
①後腹膜の濾胞性リンパ腫再発
②薬物療法の中止を希望し在宅療養中
③オピオイド内服で腰痛は消失
④悪心・腹部膨満感・腹痛・食欲不振あり
⑤腹部は著明に膨隆して腸蠕動音は減弱
⑤腹部単純CTにて後腹膜腔の腫瘤影と周囲(腹腔内・骨・腹壁)への広がりと腹水貯留・腸管内の鏡面〈ニボー〉形成あり
③④⑤よりオピオイドの副作用としての麻痺性イレウスが考えやすい。

【選択肢考察】
a 確かに腹水貯留はある。しかし、本患者の現在の主訴は腹水が原因になっているわけではなく、麻痺性イレウスが原因となっている可能性が高い。そのため、最も適切な対応とは言えない。実に6割もの受験生がこの選択肢を選び撃沈してしまった。「オピオイド内服を開始して痛みは消失したが、その後から消化管症状が出てきた」という流れを冷静に読み取れたか、が勝負の分かれ目だ。問題文に翻弄され、本質が見えないと画像中の腹水の存在だけから何となく本選択肢を選んでしまうこととなる。
b 血圧高値ではないため、不要。
c 末期状態であり、手術が功を奏するか不明。また、記載から本患者は積極的治療を望まないように読み取れる。
d 確かに低アルブミン血症は存在するも、これによる循環血液量減少が現病態の主因ではない。
e 正しい。オピオイドの副作用が考えやすいため、スイッチ〈ローテート〉するのが望ましい。

正答率:28%

テーマ:悪心を訴える終末期患者への対応

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