113A47

64歳の男性。ろれつの回りにくさと体重減少を主訴に来院した。半年前から話しにくさを自覚しており、同僚からも声が小さくて聞き取りにくいと指摘されるようになった。2か月前から食事に時間がかかるようになり、2か月間で体重が5kg減少している。1か月前からは両手指の脱力で箸が使いづらく、階段昇降も困難になってきたため受診した。意識は清明。眼球運動に制限はなく顔面の感覚には異常を認めないが、咬筋および口輪筋の筋力低下を認め、舌に萎縮と線維束性収縮を認める。四肢は遠位部優位に軽度の筋萎縮および中等度の筋力低下を認め、前胸部、左上腕および両側大腿部に線維束性収縮を認める。腱反射は全般に亢進しており、偽性の足間代を両側性に認める。Babinski徴候は両側陽性。四肢および体幹には感覚障害を認めない。血液生化学所見:総蛋白5.8g/dL、アルブミン3.5g/dL、尿素窒素11mg/dL、クレアチニン0.4mg/dL、血糖85mg/dL、HbA1c 4.5%(基準4.6~6.2)、CK 182U/L(基準30~140)。動脈血ガス分析(room air):pH 7.38、PaCO2 45Torr、PaO2 78Torr、HCO3- 23mEq/L。呼吸機能検査:%VC 62%。末梢神経伝導検査に異常を認めない。針筋電図では僧帽筋、第1背側骨間筋および大腿四頭筋に安静時での線維自発電位と陽性鋭波、筋収縮時には高振幅電位を認める。頸椎エックス線写真および頭部単純MRIに異常を認めない。嚥下造影検査で造影剤の梨状窩への貯留と軽度の気道内流入とを認める。

この時点でまず検討すべきなのはどれか。

胃瘻造設
気管切開
モルヒネ内服
エダラボン静注
リルゾール内服

解答: a

113A47の解説

64歳男性のろれつの回りにくさと体重減少。舌に萎縮と線維束性収縮を認めるのは球麻痺。針筋電図で安静時での線維自発電位と陽性鋭波、筋収縮時には高振幅電位を認めるのは神経原性変化。腱反射亢進と(偽性)足間代は上位運動ニューロンの障害、四肢遠位部の線維束性収縮は下位運動ニューロンの障害を示唆する。感覚障害の記載はなく、運動ニューロンのみが上位も下位も障害された病態と読み取れる。筋萎縮性側索硬化症〈ALS〉が考えやすい。
a 正しい。嚥下造影検査で造影剤の梨状窩への貯留と軽度の気道内流入とを認めており、嚥下障害がある。が、栄養を摂取しないと筋がどんどんやせ衰え、筋力低下につながってしまう。そのため胃瘻造設をし、胃瘻由来の栄養投与を行うことが必要となる。
b PaO2は78Torrと高度低下はしておらず、PaCO2の蓄積もない。気管切開を今すぐする必要はない。
c 疼痛ケアに利用される。本患者では痛みの訴えが無いため、不要。
d・e エダラボン、リルゾールともにALSの治療薬であるが、今回の問題の主旨はALS自体の治療ではない。

正答率:61%

テーマ:筋萎縮性側索硬化症〈ALS〉患者に検討すべき治療

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