108I76

82歳の女性。全身倦怠感を主訴に来院した。5日前、就寝中に激しい左肩の痛みと冷汗とが出現した。体動や上肢の運動による症状の悪化はなく、2時間程度で改善したためそのまま入眠した。それ以降は同様の症状はなかったが、体がだるく1日中寝込んでいることが多くなり、心配になった家族に伴われて受診した。意識は清明。身長152cm、体重58kg。体温36.8℃。脈拍92/分、整。血圧100/72mmHg。呼吸数18/分。SpO2 97%(room air)。頸静脈の怒張を認める。心尖部にIII音とIV音とを聴取する。呼吸音に異常を認めない。肩関節に痛みと運動制限を認めない。血液所見:赤血球340万、Hb 10.4g/dL、Ht 32%、白血球8,600、血小板13万。血液生化学所見:AST 38U/L、ALT 26U/L、LD 246U/L(基準176~353)、CK 138U/L(基準30~140)、尿素窒素18mg/dL、クレアチニン1.0mg/dL、尿酸6.9mg/dL、血糖123mg/dL、HbA1c 7.2%(基準4.6~6.2)、Na 136mEq/L、K 4.4mEq/L、Cl 98mEq/L。CRP 0.8mg/dL。胸部エックス線写真に異常を認めない。心電図を別に示す。
5日前からの病態を診断するために、次に行うべき検査はどれか。2つ選べ
心エコー
胸部単純CT
心筋トロポニンT
骨シンチグラフィ
左肩関節エックス線撮影

解答: a,c

108I76の解説

高齢女性の激しい左肩の痛みと冷汗。これだけで急性心筋梗塞〈AMI〉を疑うに十分な情報と言える。その場で救急車を要請してくれればよいのだが、この患者はそのまま我慢してしまった(HbA1cが高値であり、糖尿病による痛覚低下も一因かもしれない)。ゆえに頸静脈の怒張(右心不全徴候)やIII音・IV音聴取(gallop rhythm)といった心不全症状で来院している。こうしたケースは多く見られ、「少し時間の立った心筋梗塞〈MI〉」というテーマは近年の国家試験でよくみられる(109A33, 109I79など)。本問を通じてこうしたパターンのMIの心電図読解に習熟しておこう。まずII, III, aVFにおいてP波の尖鋭化を認め、右房負荷を示している。また、同誘導で異常Q波(R波がみられないため、QSパターンと呼ぶ)と冠性T波とがみられ、これらはMIが発生してから時間が経過していることを意味する。以上より、下壁の梗塞が考えやすい。少し時間が経過しているため、典型的なST上昇やCK上昇はみられていない、というのが重要。
a 正しい。心エコーにて壁運動を観察する。収縮期駆出分画〈EF〉も測定できる。
b 胸部単純CTでは冠動脈を十分に観察できない。
c 正しい。少し時間の立った心筋梗塞では血中CKが陰性となっても、心筋トロポニンTは未だ陽性であることが多い。
d 骨シンチグラフィは、腫瘍の骨転移を疑った場合に行う。
e 左肩関節エックス線撮影は関節疾患を疑った場合に行う。

正答率:93%

テーマ:発症5日が経過した急性心筋梗塞〈AMI〉の診断に行うべき検査

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