118A56

70歳の男性。左足のこわばりを主訴に来院した。自宅近くの診療所にて糖尿病と高血圧症で加療中。1か月前から100m程度の歩行で、左足のこわばり及びつることを自覚したため受診した。喫煙は20本/日を50年間。意識は清明。身長178cm、体重84kg。体温36.3℃。脈拍68/分、整。血圧168/90mmHg。SpO2 96%(room air)。頸静脈の怒張を認めない。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦、軟で、肝・脾を触知しない。両下肢に浮腫はない。左下肢に冷感を認める。左膝窩動脈、左足背動脈および左後脛骨動脈の拍動が減弱している。足関節上腕血圧比〈ABI〉で左側0.67、右側1.03であった。左下肢の血管造影像を別に示す。
この患者への指導で適切でないのはどれか。
「禁煙してください」
「体重を減量してください」
「左足を冷やすようにしてください」
「左足を傷つけないようにしてください」
「歩行することで運動療法をしてください」

解答: c

118A56の解説

【ポイント】
糖尿病と高血圧症の背景がある高齢男性(喫煙者)における間欠性跛行。左膝窩動脈、左足背動脈および左後脛骨動脈の拍動が減弱しており、確かに画像にて造影欠損が指摘可能。血流低下により冷感を認め、ABIも低下している。閉塞性動脈硬化症〈ASO〉の診断。

【選択肢考察】
a 喫煙がリスクとなるため、禁煙が推奨される。
b 肥満がリスクとなるため、減量が推奨される。
c 誤り。冷感があるにもかかわらず、冷やすように指導するのは意味不明。むしろ血流維持のため、保温に努めたい。他選択肢に「傷つけないようにしてください」というものがあるため、「冷やさないようにしてください」と読み違えてしまった者もいたようだ。これはもう、紛らわしい出題が悪い。諦めよう。
d 循環障害により軽微な創傷が潰瘍や壊死へと発展しかねない。これを予防すべく、行いたい指導だ。
e 「無理のない範囲での運動療法を推奨します(○)」程度の記載で十分だろうに、あえて間欠性跛行がみられている患者を題材に「歩行することで」と銘打つ設定に「受験生を悩ませてやろう!」という出題者の意地悪さを感じる。ただ、一般的に「運動療法」という言葉を聞いた場合、足を一切動かさずに上半身や体幹のみを用いる運動をイメージする者は非常に少ないはずだ(そうした運動は「リハビリ」と形容されることが多い印象)。間欠性跛行がみられているとはいえ、現状歩行が可能な者が足を動かして運動する場合、最も一般的なのは歩行のはずであり、その観点からは「歩行することで」はあまり意味をなしていない文言とも言える。つまり、(時代がら炎上・不適切を恐れる出題者や厚労省の立場に立って)本当に誤った記載にしたいのであれば「足は一切動かさないで運動療法をしてください(×)」や「歩行は禁止とします(×)」、「絶対安静としてください(×)」、「毎日10kgのマラソンをしてください(×)」などとすべきであろう。このように出題心理と日本語を追求することである程度のトラップは回避可能だ。が、医学ではなく心理学や日本語の問題となっている時点で医師国家試験の問題としてはお粗末。まぁ、あまり深入りはせず「間欠性跛行があっても歩行による運動療法はOK」程度で流すのが吉か。

正答率:98%

テーマ:閉塞性動脈硬化症〈ASO〉患者への指導

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