117C66

次の文を読み、以下の問いに答えよ。
52歳の女性。意識障害のため救急車で搬入された。
現病歴:5日前から38℃を超える発熱と悪寒戦慄を訴え、市販のアセトアミノフェンを内服していた。本日夕食中に急に頭痛とふらつき感を訴え、嘔吐した。その後いびきをかいて眠りだし、呼びかけに応答しなくなったため、家族が救急車を要請した。
既往歴:アトピー性皮膚炎で副腎皮質ステロイド外用薬を処方されている。健診で異常を指摘されたことはない。
生活歴:夫と2人の息子との4人暮らし。仕事は事務職。喫煙歴はない。飲酒はビール350mL/日。
家族歴:両親とも胃癌で死亡。
現 症:意識レベルはJCS III-200。身長158cm、体重60kg。体温37.8℃。心拍数120/分、整。血圧200/104mmHg。呼吸数16/分。SpO2 100%(リザーバー付マスク10L/分 酸素投与下)。救急隊により経鼻エアウェイが挿入されている。瞳孔径は右5.0mm、左3.0mm。対光反射は両側で消失している。心尖部を最強点とするLevine 3/6の収縮期逆流性雑音を聴取する。上気道にいびき音を聴取する。腹部は平坦、軟で、肝・脾を触知しない。下腿に浮腫を認めない。両側足趾先端に点状出血斑を合計3ヶ所認める。頸部周囲と両肘内側に鱗屑、紅斑および苔癬化を認め、一部浸出液がみられる。
検査所見:尿所見:淡黄褐色透明、蛋白(-)、糖(-)、潜血(-)。血液所見:赤血球450万、Hb 13.3g/dL、Ht 42%、白血球11,200(桿状核好中球13%、分葉核好中球53%、好酸球8%、好塩基球1%、単球3%、リンパ球23%)、血小板32万、PT-INR 1.2(基準0.9~1.1)。血液生化学所見:総蛋白6.9g/dL、アルブミン4.2g/dL、総ビリルビン0.6mg/dL、直接ビリルビン0.1mg/dL、AST 30U/L、ALT 13U/L、LD 220U/L(基準120~245)、ALP 83U/L(基準38~113)、γ-GT 13U/L(基準8~50)、尿素窒素13mg/dL、クレアチニン0.47mg/dL、血糖204mg/dL、Na 142mEq/L、K 3.5mEq/L、Cl 105mEq/L。CRP 10mg/dL。心電図は洞性頻脈でST-T変化を認めない。胸部エックス線写真で心胸郭比57%(臥位で撮影)。搬入直後の頭部単純CTを別に示す。
直ちに行うべき処置はどれか。
胃管挿入
気管挿管
中心静脈カテーテル留置
ニトログリセリン投与
腰椎穿刺

解答: b

117C66の解説

【プロセス】
①5日前から38℃を超える発熱と悪寒戦慄
②意識レベルはJCS III-200
③救急隊により経鼻エアウェイ挿入済
④瞳孔径は右5.0mm、左3.0mm・対光反射は両側で消失
⑤心尖部を最強点とする収縮期逆流性雑音
⑥上気道にいびき音
⑦両側足趾先端に点状出血斑を合計3ヶ所
⑧頸部周囲と両肘内側に鱗屑、紅斑および苔癬化
⑨搬入直後の頭部単純CTにてくも膜下出血〈SAH〉
☞⑤は僧帽弁閉鎖不全症〈MR〉を疑う雑音である。⑦はOsler結節と考えられ、①と合わせて感染性心内膜炎〈IE〉を疑いたい。IEでは感染性脳動脈瘤が形成され、⑨をきたすことが知られる。SAHによる②④と説明できる。すでに③の処置が済んでいるが、⑥をみる限り、気管挿管による確実な気道確保が必要な局面と考えられる。なお、⑧は既往歴にあるアトピー性皮膚炎についての記載であり、本問とは直接関係がない。

【選択肢考察】
a 経口栄養摂取が困難な患者や腸閉塞患者に有効。
b 正しい。上記の通り。
c 薬液投与は末梢からでも可能であり、緊急で高カロリー輸液をしたい局面でもない。すなわち、「直ちに」中心静脈カテーテルを留置する必要はない。
d 約15%の受験生が本選択肢にマルを付した。おそらくは血圧200/104mmHgに対し、緊急で降圧を図ろうと考えたのだろう。が、実は逆なのだ。脳外科領域においては頭蓋内圧を上昇させる恐れがあるため、頭部外傷または脳出血のある患者へのニトログリセリン投与は添付文書中で「慎重投与」という位置づけになっている。まぁ知らなければ仕方がないとは思うが、「気管挿管」をさておいてまで選ぶ価値のある選択肢であったのか、もし本選択肢を選んでしまった者がいたとしたら自問自答してみてほしい。
e 頭蓋内圧亢進時に腰椎穿刺を行うと脳ヘルニアを惹起・ないし増悪しかねないため★禁忌★。

正答率:80%

テーマ:【長文1/3】くも膜下出血〈SAH〉患者に直ちに行うべき処置

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