114F72

次の文を読み、以下の問いに答えよ。

70歳の女性。発熱および左殿部痛のため救急車で搬入された。

現病歴:1か月前から左殿部に圧痛を伴う発赤が出現した。また、しばしば腟から排膿することがあった。10日前から発熱が出現し、以後は食事摂取量が少なかったという。左殿部の痛みにより歩行も困難になったため救急車を要請した。

既往歴:10年前に人工物による子宮脱の手術を受けた。

生活歴:専業主婦。

家族歴:父が糖尿病、高血圧症。

現 症:意識レベルはJCS I-2。身長145cm、体重46.6kg。体温39.0℃。心拍数92/分、整。血圧108/76mmHg。呼吸数24/分。SpO2 98%(マスク5L/分酸素投与下)。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦、軟で、肝・脾を触知しない。左殿部(A)を別に示す。同部に強い圧痛を認める。内診で腟後壁に瘻孔と排膿が観察され、膿は悪臭である。直腸指診では異常を認めない。

検査所見:血液所見:赤血球403万、Hb 12.2g/dL、Ht 35%、白血球1,800、血小板3万、PT-INR 1.3(基準0.9〜1.1)、血清FDP 26μg/mL(基準10以下)。血液生化学所見:総蛋白4.6g/dL、アルブミン1.7g/dL、総ビリルビン2.4mg/dL、AST 48U/L、ALT 47U/L、LD 216U/L(基準120〜245)、γ-GT 40U/L(基準8〜50)、アミラーゼ17U/L(基準37〜160)、CK 72U/L(基準30〜140)、尿素窒素32mg/dL、クレアチニン2.1mg/dL、血糖215mg/dL、HbA1c 9.0%(基準4.6〜6.2)、Na 132mEq/L、K 3.8mEq/L、Cl 105mEq/L。CRP 19mg/dL。殿部CTの水平断像(B)を別に示す。

病原微生物として可能性が高いのはどれか。2つ選べ

Candida albicans
Chlamydia trachomatis
Clostridioides difficile
Escherichia coli
Peptostreptococcus anaerobius

解答: d,e

114F72の解説

高齢女性の発熱と左殿部痛。血糖値とHbA1cの値からは糖尿病の診断が可能で、易感染性の背景にあったと考えられる。10年前の子宮脱手術による人工物が感染の温床となったのであろうか、膣からしばしば排膿していたとのことで、この部分に端を発した深部感染症が疑われる。画像Aでは殿部の発赤・腫脹と中心部の黒色化した壊死性変化がみられる。Bでは左殿筋内のガス像がみられる。壊死性筋膜炎(フルニエ壊疽)が考えやすい。
※市販の解説書では診断名が「ガス壊疽」となっているが、壊死性筋膜炎のスコアリングシステムであるLRINEC scoreで10点(8点以上で壊死性筋膜炎の可能性が非常に高い)となること、2問目でガス壊疽のキーワードである高圧酸素療法を敢えてバツ扱いとしていること、109I71と極めて似た出題であること、など総合的に考え、ここでは「壊死性筋膜炎(フルニエ壊疽)」と診断しておく。が、別に他社の解説書を否定する意図は毛頭ないし、受験生各人が自分にとってよりしっくり来る方を選べばよい。
a カンジダ。免疫低下者で賦活化しやすい常在菌であるが、壊死性筋膜炎の原因とはならない。
b クラミジア。性感染症の原因とはなるが、壊死性筋膜炎の原因とはならない。
c 偽膜性腸炎の原因とはなるが、壊死性筋膜炎の原因とはならない。ガス壊疽からのクロストリジウムという引っ掛けであろう。残念ながら約45%の受験生が選択してしまった。ちなみに、このC.difficileは現在、分類上、クロストリジウム属から外れている。
d 正しい。大腸菌であり、高齢者や糖尿病など基礎疾患のある患者に発症しやすいタイプの壊死性筋膜炎の原因菌となる。
e 正しい。ペプトストレプトコッカスは高齢者や糖尿病など基礎疾患のある患者に発症しやすいタイプの壊死性筋膜炎の原因菌となる。

正答率:45%

テーマ:【長文1/3】フルニエ〈Fournier〉壊疽(壊死性筋膜炎)の病原微生物

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