112B30

31歳の1回経産婦。妊娠32週1日。性器出血を主訴に妊婦健康診査を受けている周産期母子医療センターに来院した。10日ほど前にも少量の性器出血があり、3日間の自宅安静で軽快したという。本日自宅で夕食作りをしていたとき、突然、性器出血があり、慌てて受診した。第1子を妊娠38週で正常分娩している。体温36.5℃。脈拍88/分、整。血圧102/62mmHg。来院時、ナプキンに付着した血液は約50mLだった。膣鏡診で計250mLの血液および凝血塊の貯留を認め、子宮口から血液流出が続いているのが観察された。腹部超音波検査で胎児推定体重は1,850g、羊水量は正常。胎児心拍数陣痛図で子宮収縮はなく、胎児心拍数波形に異常を認めない。経膣超音波像を別に示す。

対応として正しいのはどれか。

帝王切開を行う。
子宮頸管縫縮術を行う。
翌日の受診を指示し帰宅させる。
β$_2$刺激薬の点滴静注を開始する。
オキシトシンの点滴静注を開始する。

解答: aまたはd

112B30の解説

妊娠32週の1回経産婦。痛みを伴わない性器出血がみられている。画像では胎盤が内子宮口をおおっている様子が観察でき、前置胎盤の診断。みられた性器出血は警告出血と呼ばれる有名なものだ。
a 正しい。出血が250mLを超えており、実臨床では帝王切開に踏み切ることとなる。実際に臨床医の多くが本問を解いた際にaと即答した。が、限られた情報しか得ることのできないペーパーテストでいきなり帝王切開を選択するのもはばかられる。また、教科書や国試の過去問的に「前置胎盤→37週まで待って帝王切開」というパターンで覚えてきた受験生が多く、本選択肢を選べた者は47%にとどまった。そのためだろうか、複数正答とし、dも正解と発表された。
b 頸管無力症に行う。
c 出血が持続している段階で帰宅はありえない。
d 正しい。「子宮収縮はなく」と明記されている以上、子宮収縮抑制薬であるβ2刺激薬を投与する意義は乏しい。が、妊娠の維持に貢献しないとも言い切れず、aに書いた事情から本選択肢を選んだ21%の受験生を救済する目的もあってか、正解と発表された。
e 胎盤が内子宮口を覆ってしまっている以上、どう逆立ちしても経膣分娩は不可。この段階での子宮収縮薬(オキシトシン)投与は禁忌である。
※おそらく出題者の意図はaなのだろう。が、「医師国家試験の問題として100%適正か」、という物言いもついたのだろう、dも正解とされた。
※冷静になって本問を解き直してみるに、cとeはありえないため実質3択。bは異なる疾患に用いる術式であり、不適切。「子宮収縮はなく」と書いてあるのでdも意味がない。ゆえに消去法でaが残せる。が、そう単純に事が運ばないのが試験本番だ。
※特に産婦人科領域の問題は学生レベル(主に実習や机の上の学問)と専門医レベル(毎日出産に立ち会ったりオペしているような現役バリバリのDr.たち)との乖離がみられやすい科目だ。ゆえに専門医に言わせると当然であっても、学生レベルでは全く聞いたことない事象などゴロゴロと転がっている。が、そうした事象を知らねばならないのか、と問われれば筆者はNoと断言する。結果論であるが、本問ではaかdのいずれかを消去法で残せれば得点できたわけだし、万が一aのみが正解だったとしたら正答率が50%を切る合否を分けない問題となっていた。現代国試を突破するにあたって『これまで一度も聞いたことない事項の予想』は不要だ(有害と言っても過言ではない)。むしろ左記『 』にこだわってしまう受験生は不合格に近づくこととなる。このことを念頭に置き、本問の立ち位置・押さえ方・復習での位置づけ、を各自設定してほしい。

正答率:68%

テーマ:前置胎盤による大量出血への対応

フォーラムへ投稿

関連トピック

なし