加齢老年学の範囲で取り扱われている連問の一問目の問題についてです。
正しい心電図所見を選ばせる問題なのですが、除外選択肢としてのd.房室接合部調律に関して、講義中に説明されていた「wide QRSになるはずだ」からという部分がよく理解できませんでした。
調べてみたところ、房室接合部調律では洞除脈に対する補充収縮として出現する場合や、副交感神経の緊張亢進で出現することがあり、異所性P波はQRS波より前に出ることもありますが、QRS波の後ろに出現したりQRS波の中に隠れていることもあるそうです。
これは、房室接合部の中で興奮の起こる場所と伝導速度が異なるためとされていますが、本問においてはQRS波の中に隠れている状況を想定した上での説明ということでしょうか。
(心電図所見より、異所性P波はどこにも見られないことから消去法的に正解は得られるのですが、解説に疑問を抱いたために質問をさせていただきました。)
もちろん例外はあるかもしれませんが、洞結節から出た波形はnarrow、それ以外から発生したイレギュラーな波形はwide、と僕はザックリ押さえています。
房室接合部調律は文字通り、洞結節から作られているわけではないので、wideになるのでは、という解説かと思います。
国試的には穂澄先生のおっしゃる覚え方である程度戦えるのだと思いますが、厳密には質問者さんの仰る通り、房室接合部調律では他に伝導障害などなければnarrow QRSになります。本問題では洞調律(規則正しい洞性Pがあり、その後にQRSが続く)であることから房室接合部調律は除外されます。
89E10
73歳の女性.急性心筋梗塞のため救急入院した.直ちに冠動脈造影を行ったところ左前下行枝に閉塞を認めたため,t-PA(組織プラスミノゲンアクチベーター)の冠動脈内投与を開始した.入院約2時間後に突然心拍数36/分,血圧が触診不能となり,意識が消失した.心雑音は聴取せず,直ちに記録した心電図で房室接合部調律を認めた.ノルエピネフリンの投与を行ったが血圧の上昇を認めなかった.
最も考えられるのはどれか.
a 再灌流性不整脈
b 心室中隔穿孔
c 左室自由壁破裂
d 左室乳頭筋断裂
e 脳出血
正解:c(正答率 データなし)
選択肢「a. QT延長」「c. 心房細動」「e. II度房室ブロック」は真っ先に除外できますから、問題となるのは、その先に控えている「b. 洞性徐脈」「d. 房室接合部調律」の検討です。ここでは、この2つの用語それぞれの定義を復習しておきます。
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(1) 洞性徐脈
洞性徐脈は、心電図にて洞調律で、心拍数が50bpm未満であるような状態です。
そもそも洞調律とは、洞結節による調律のことであり、心電図では以下の3条件全てを満たす場合に定義されます。
● II, III, aVF 誘導のP波が陽性、かつaVR誘導のP波が陰性
● R-R間隔が整
● P波:QRS群
(2) 房室接合部調律
房室接合部調律は、房室接合部によって調律されている、異所性調律の一種です。
そもそも異所性調律とは、洞調律(洞結節による調律)以外の調律のことであり、冠静脈洞調律や左房調律、房室接合部調律、心筋固有調律など、様々な種類が存在します。心筋固有調律を除いて、基本的には(P波が他の波に埋もれなければ)P波とQRS群が1対1かつR-R間隔が整ですが、P波の性状が洞性(II, III, aVFで陽性、aVRで陰性)とは限らない、という特徴を持ちます。
● 冠静脈洞調律 = Iで陽性かつII, III, aVFで陰性P波
● 左房調律 = I, V6で陰性P波
● 房室接合部調律 = II, III, aVFで陰性P波(逆行性P波)。
ただし、房室接合部のどこから興奮し、どのように伝導するかによってP波の出現部位が異なります。心房に早く興奮が伝わればQRS波の前に逆行性P波を認め、心房に遅く興奮が伝わればQRS波の後に逆行性P波を認めます。QRS波と同時であれば、P波はQRS波に埋もれて見えなくなります。
● 心室固有調律 = 心室から興奮が開始するため、QRS波はwideとなります。P波は存在しないこともあります。心拍数が50bpm未満の場合には心室補充(固有)調律、心拍数が50bpm以上100bpm未満の場合には促進性心室固有調律、心拍数が100bpm以上の場合には心室頻拍と呼ばれます。
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本問の選択肢 b, d の検討では、最終的に P 波が洞性か否かで判断することになります。今回は洞性なので、正解は b です。
この問題の難しさの本質は、臨床現場では必須であるものの通常の国試ではあまり要求されることの無い「心電図を読む際にはまず洞調律であるかどうかを識別する」という大原則の理解が直接的に問われたことにあります。調律について深掘りし出すとキリがないですし、今後の国試対策でどこまで対策するかは人それぞれでしょうが、個人的には「本問との出会いをきっかけとして、洞調律の定義について軽くおさらいしておく」くらいの扱いで良いのではないかと思います。
少しでも皆さまの参考になれば幸いです。
【出典】
● https://www.jmedj.co.jp/premium/rlec/data/5110/
● https://sindenzu.com/category/調律/
● https://www.kango-roo.com/learning/2211/
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