この問題において、心拍が認められるとありますが、全胞状奇胎においても心拍が認められるものなのでしょうか?心拍が認められる、ということは胎児成分がある、つまり部分胞状奇胎であると分かるのではないでしょうか?
心拍が確認された6週時には生きていたが9週時には亡くなっていたということであり、この診断時に心拍が認められたとの記載はありません。
死亡しているので心拍は認められません。
読み間違えかと思います笑
稀に胎児が生存している状況でも胞状奇胎が発生することがあるみたいですが、結果胎児死亡に至るみたいです。
ありがとうございます!
10年ほど前、この問題を初見でみたときの僕も同じように思い、「病理画像って読むの難しいよね、でも "心拍とが確認され" って書いてあるから、ここから部分胞状奇胎って分かるじゃん!」的に講義内で解説をしていました。ところが後日、産婦人科の専門医の方から「それでは不正確です」とご指摘をいただき、その後、解説を改めるようになったのを記憶しています。
例えば、「胎児共存奇胎」という概念があります。これは、正常胎児と胞状奇胎との双胎のことで、その場合は正常胎児の方の心拍が+でも、胞状奇胎の方が胞状奇胎という形になります。
もちろん今回の107D40では「妊娠6週4日の単胎妊娠と診断した」とも本文中に書いてありますので、↑の胎児共存奇胎は除外してくれているのだと思いますが、妊娠6週時点の超音波所見がどこまで信頼のいくものなのか、は疑問の残るところです。
出題者が「病理画像は難しいから、学生のうちは読めなくても仕方がない、だから本文だけからでも解けるように作っておきましたよ」という優しい人だったのか(性善説)、それとも「臨床は甘くないんだよ! 病理が読めなきゃムリゲーなんだから、本文の記載にだまされる君が悪い! ひっかけ問題でした〜残念!」という意地悪な人だったのか(性悪説)、どちらなのか、ということです。
これはさらに、国家試験のペーパーテスト上の暗黙のルールとして「書いてあることは絶対正しく、見逃しや誤診はありえないものとする」と考えて良いのか、という話、さらには400問(ちなみに107回当時は500問でした)もある膨大な問題に対し、1つ1つ、そこまで吟味する余力が受験生にはあるのか、という現実的な問題にまで発展していきます(考えすぎかしら?)。
実臨床では見逃しや誤診の可能性をゼロにすることはできませんから、「経腟超音波検査で子宮内に胎嚢と心拍とが確認され、妊娠6週4日の単胎妊娠と診断した」というだけでは確定診断はできません。実際、「胎児共存部分胞状奇胎の3症例」という2014年の論文(http://hdl.handle.net/10271/2748)によれば、
・胞状奇胎における超音波検査の精度について報告した Sebireらによれば、155 例の胞状奇胎症例(部分胞状奇胎・全奇胎を含む)のうち超音波検査にて診断できたのは 53 例(34%)、そのうち部分胞状奇胎に限れば 91 例中 16 例(18%)のみであったとしている
・最終的に全胞状奇胎・部分胞状奇胎の診断は主 に組織学的所見に基づいて行われるが、組織学的検査だけではそれらの鑑別が困難な場合がある。そのような場合、免疫組織化学的検査あるいは DNA 多型解析による検査が有用である
とのことです。
組織学的検査ですら不確実なんですね。
では国試というペーパーテストではどこまで突き詰めるべきなのか。
残念ながら、厚労省側から「書いてあることは絶対正しく、見逃しや誤診はありえないものとする」といった通達はないため、なんとも言えない、というのが現実なんです。
受験生各人がどこまでのリスクを許容するか、を判断し、「暗記量を減らし、スピードを重視できるが、不確実な解き方」〜〜〜「暗記量が増え、試験時間中に処理しなくてはならない分量が増えるが、確実な解き方」まで、どのスタンスを取るか、選択せねばなりません。国試に正解はありますが、その正解に至る過程・スタンスに正解はないのです。「〜〜〜」と「〜」を3つつなげて書いたのは、このフェーズにおいても完全な二者択一ではなく、「暗記量を極力少なくするが、思考力等で補い、100%ではないが、90%くらいまで確実度を上げる解き方」のような段階がたくさん存在するためです。
僕の講義を日頃ご覧いただいている方なら、この「〜〜〜」の部分のバランスのとり方が国試対策のみならず、勉強全般、ひいては人生においては大事であることをご理解いただけると思います。
長くなりましたが、簡単に結論を書くと、「胎児心拍が確認された」という記載だけから部分胞状奇胎と診断するのは不確実です。が、制限時間のある医師国家試験でそのように判断するのはあながち間違えとは言い切れず、結果論ですが正解ともなっているので、学習者の判断によって「胎児心拍が確認されていれば全胞状奇胎ではなく、部分胞状奇胎」とみなしても問題ない、というのが僕の現在の見解です。
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