117D38

65歳の男性。乳房の腫脹と痛みを主訴に来院した。5年前から泌尿器科で抗男性ホルモン薬による前立腺癌の治療を受けている。1年前から高血圧症でカルシウム拮抗薬を、肝硬変で利胆薬と抗アルドステロン薬を内服している。2か月前から乳房の腫脹と痛みが出現し、持続しているため受診した。体温36.7℃。脈拍96/分、整。血圧144/80mmHg。眼瞼結膜に異常を認めない。柔らかな甲状腺腫を触知する。心音と呼吸音とに異常を認めない。両側の乳房に腫大を認めるが、熱感や発赤は認めない。乳頭部分が下着に当たると軽い痛みがある。乳汁分泌は認めない。乳房の写真を別に示す。
この患者の乳房腫大の原因で可能性が低いのはどれか。
肝機能障害の進行
甲状腺機能亢進症
抗男性ホルモン薬治療
カルシウム拮抗薬の内服
抗アルドステロン薬の内服

解答: b

117D38の解説

【プロセス】
①乳房の腫脹と痛み
②乳房の写真にて女性化乳房
☞選択肢から女性化乳房の原因とならないものを選ぶ。なお、②で乳輪付近をつまんでいるのは乳汁分泌の有無を確認しているのだろう。本患者では乳汁分泌を伴っていないが、男性の場合は高プロラクチン血症であっても乳汁分泌を伴わないことが多く、試験で提示する上では(手技のお手本としてはさておき)ミスリーディングな感がある。厚労省は本問を不適切問題と認定し、採点除外とした上、正答公表を行わなかった。この乳汁分泌の有無と選択肢、さらには不適切問題となった経緯を深く考察すると、本来の出題者の意図した正解が見えてくる。

【選択肢考察】
a 肝硬変では肝でのエストロゲン分解が滞り、女性化乳房がみられる。
b 誤り。甲状腺機能亢進症ではなく、低下症にて高プロラクチン血症をみる(高プロラクチン血症で女性化乳房をきたす、という知識は114C34-eにて間接的ながら出題済)。そのため、出題者的には「亢進症じゃなくて低下症、逆ですよ〜!」という意図でシンプルに出題したつもりなのだろう。が、乳汁分泌を伴っていないため、高プロラクチン血症をそもそも思い浮かべられなかった受験生も多く、さらには甲状腺機能亢進症でも稀ながら女性化乳房をきたす報告がある。そんなこんなで「必ずしも誤りと言えないじゃないか!」という物言いがつき、採点除外問題となったものと推察する。
c 抗男性ホルモン薬により、相対的にエストロゲン作用が亢進し、女性化乳房をみる。
d 代表的なカルシウム拮抗薬であるニフェジピンの添付文書を紐解くと、「その他の副作用」として女性化乳房が明記されている。知らなければ仕方ない知識であり、約4割の受験生が本選択肢を選んだ。本問が採点除外となった理由の1つでもあるはずだ。
e 代表的な抗アルドステロン薬であるスピロノラクトンが女性化乳房をきたす、という事実は有名だ。必ず覚えてほしい。

正答率:60%

テーマ:女性化乳房の原因

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