117C60

次の文を読み、以下の問いに答えよ。
76歳の男性。食欲不振と倦怠感を主訴に来院した。
現病歴:1週間前から倦怠感と水様便(1日2回~4回)が出現した。食欲がなく、おかゆを無理に食べている。悪心はあるが嘔吐、腹痛、黒色便および血便はない。体重が3kg減少した。37℃台の微熱があるが悪寒戦慄はない。
既往歴:高血圧症でカルシウム拮抗薬を内服している。アレルギーなし。
生活歴:妻と2人暮らし。喫煙は20歳から40本/日。飲酒歴はない。
家族歴:兄が60歳台で大腸癌。
現 症:意識は清明だがややぐったりしている。身長166cm、体重69kg。体温37.5℃。脈拍104/分、整。血圧86/50mmHg。呼吸数20/分。SpO2 96%(room air)。皮膚は乾燥し、色素沈着を認めない。眼瞼結膜と眼球結膜とに異常を認めない。口腔内は乾燥しており咽頭発赤はない。頸静脈の怒張を認めない。甲状腺腫と頸部リンパ節を触知しない。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦、軟で、圧痛はなく、肝・脾を触知しない。四肢末梢は冷たいがチアノーゼや浮腫を認めない。ばち指を認める。
検査所見:尿所見:蛋白(-)、糖(-)、潜血(-)。血液所見:赤血球437万、Hb 12.3g/dL、Ht 34%、白血球5,400(好中球45%、好酸球21%、好塩基球1%、単球9%、リンパ球24%)、血小板23万。血液生化学所見:総蛋白6.3g/dL、アルブミン3.7g/dL、総ビリルビン0.5mg/dL、直接ビリルビン0.2mg/dL、AST 43U/L、ALT 78U/L、LD 169U/L(基準120~245)、ALP 200U/L(基準38~113)、γ-GT 96U/L(基準8~50)、CK 100U/L(基準30~140)、尿素窒素11mg/dL、クレアチニン1.0mg/dL、尿酸3.7mg/dL、血糖92mg/dL、Na 118mEq/L、K 4.6mEq/L、Cl 89mEq/L、Ca 8.4mg/dL。血清浸透圧240mOsm/L(基準275~288)、尿浸透圧572mOsm/L(基準50~1,300)、尿中Na 84mEq/L。胸部エックス線写真(A)と胸腹部造影CT(B、C)を別に示す。
この患者の電解質異常の鑑別に有用な検査はどれか。2つ選べ
プロラクチン
ACTHとコルチゾール
副甲状腺ホルモン〈PTH〉
レニン・アルドステロン比
TSHと遊離サイロキシン〈FT4

解答: b,d

117C60の解説

【プロセス】
なんとも複雑な設定であり、1問目は採点除外(厚労省からのそもそも正答公表なし)という扱いとなった。深掘りすることはいくらでもできる良問とも言え、意欲的な諸君は友人などと議論してほしいところなのだが、文字での解説には分かりやすさの観点から限界があるため、超絶シンプルにここでは解説することとする。まずは画像Aにて左肺門部に腫瘤を疑う陰影がある。画像Bよりこれは肺癌とその縦隔リンパ節転移と分かる。設問設定が「この患者の電解質異常の鑑別」であり、これはすなわち低ナトリウム血症(Na 118mEq/L)を意味している。肺癌からの低ナトリウム血症ときたら、ADH不適合分泌症候群〈SIADH〉であろう(大本命の診断)。実際、血漿浸透圧低値&尿浸透圧(基準値内とはいえこのNa濃度にしては)高め、という「血は薄く尿は濃く」のルールも満たしている。ただ、ここで厄介なのが画像Cだ。画像Cでは左副腎腫瘍が示されている。副腎由来で低ナトリウム血症ときたら、Addison病である(鑑別対象)。ゆえに「SIADHが最も考えやすいけど、一応Addison病も除外しておこう」という意図から行いたい検査を選ぶ。

【選択肢考察】
a プロラクチンとAddison病は直接の関係がない。
b 正しい。Addison病では副腎皮質機能低下によりコルチゾールが低下し、フィードバックによりACTHが上昇する。
c 副甲状腺とAddison病は直接の関係がない。
d 正しい。Addison病ではアルドステロンが低下し、フィードバックによりレニンが上昇する。一方、SIADHではレニンが抑制されるため、よい対比となる。
e △。おそらくはこれが出題者の意図した正解の1つなのだろう。が、本選択肢を選べた者はたった6%にすぎず、「これでは試験にならない!」ということで厚労省は不適切問題と判断したのだと思われる。確かに甲状腺機能低下症でも低ナトリウム血症が出現するため、鑑別には有用といえる。が、本文で「甲状腺腫なし」などと示した上、画像Cで副腎腫瘍まで示しておきながら、甲状腺を正解にするのは飛躍がすぎる。まとめるなら、実臨床では測定が推奨されるが、ペーパーテストで限られた情報しか提示していない上に、より魅力的な選択肢が他に2つある状況で敢えて勝負をかける必要性には乏しい選択肢と言えよう。少なくとも筆者は選ばない。

正答率:4%

テーマ:【長文1/3】低ナトリウム血症の鑑別に有用な検査

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