116C69

次の文を読み、以下の問いに答えよ。

56歳の女性。歩行困難と嚥下困難を主訴に来院した。
現病歴:2年前から左上肢の筋力低下を自覚した。1年前から右上肢にも同様の症状を自覚するようになり、自宅近くの診療所を受診したところ、病院の脳神経内科に紹介受診となった。入院精査の結果、筋萎縮性側索硬化症〈ALS〉の診断を受けた。その後、病院に通院していたが下肢筋力が低下して徐々に歩行困難となった。3か月前からは、しゃべりにくさを自覚した。時々食事でむせることもあった。病院への通院が困難となり、在宅医療への移行を相談するために受診した。
既往歴:健診で高血圧を指摘されたことがあるが、内服治療はしていない。
生活歴:もともとパート勤務をしていたが発症後は退職した。夫と二人暮らし。長男、長女は独立し別居している。
家族歴:父が肺癌、母は子宮癌であった。
現 症:意識は清明。身長152cm、体重38kg。体温36.6℃。脈拍76/分、整。血圧108/68mmHg。心音と呼吸音に異常を認めない。腹部は平坦、軟で、肝・脾を触知しない。神経診察では①眼球運動は正常。顔面の感覚には異常を認めない。②咬筋および口輪筋の筋力は保たれている。③挺舌は可能だが、舌筋には軽度の萎縮とぴくぴくとした不規則な動きがみられる。発声時の咽頭挙上は不良。四肢は右側優位に筋萎縮、筋力低下がみられ、④立位保持は可能だが、歩行は支えがないと困難である。腱反射は上肢で減弱し、下肢は亢進。Babinski徴候は両側陽性。右肩関節は可動域制限があり他動的に動かすと疼痛を訴える。痛覚、深部感覚の異常はない。トイレへの移動には介助が必要だが、⑤排泄は可能である。
検査所見:尿所見:蛋白(−)、糖(−)、潜血(−)。血液所見:赤血球462万、Hb 12.6g/dL、Ht 40%、白血球6,200、血小板24万。血液生化学所見:総蛋白6.6g/dL、アルブミン3.8g/dL、AST 26U/L、ALT 30U/L、LD 204U/L(基準120~245)、ALP 68U/L(基準38~113)、尿素窒素18mg/dL、クレアチニン0.2mg/dL、血糖76mg/dL、Na 136mEq/L、K 4.0mEq/L、Cl 98mEq/L。CRP 0.1mg/dL。動脈血ガス分析(自発呼吸、room air):pH 7.38、PaCO2 42Torr、PaO2 92Torr、HCO3- 26mEq/L。心電図と胸部エックス線写真に異常を認めない。

下線部のうち、今後も維持される可能性が高い機能はどれか。2つ選べ

解答: a,e

116C69の解説

【プロセス】
①筋萎縮性側索硬化症〈ALS〉の診断済
②下肢筋力が低下して徐々に歩行困難
③しゃべりにくさを自覚
④時々食事でむせる
☞①より診断はすでについている。3連問の1問目として、まずはALSについての一般知識(陰性症状)が問われている。②〜④から現在の状況をつかみ、問題解決のヒントにしよう。

【選択肢考察】
a 正しい。眼球運動障害は古典的な陰性症状である。が、近年は人工呼吸器導入による長期生存が可能となり、中脳や橋障害を呈する症例も増えてきた。ゆえに、かつて陰性症状に含まれた眼球運動障害もみられうる。しかしながら、本問の下線部のうちで検討する分には長期間維持される可能性が高い。
b ALSの障害は咬筋や口輪筋にも及び、食物の摂取や表情の形成が困難となる。
c 球麻痺により、挺舌を担う舌筋にも筋力低下や萎縮をみる。
d 下肢の筋力も低下するため、立位保持は困難となる。
e 正しい。ALSにて自律神経は障害されない。ゆえに膀胱直腸障害は陰性症状の1つとなっている。

正答率:94%

テーマ:【長文1/3】筋萎縮性側索硬化症〈ALS〉の陰性症状

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