109E48

86歳の男性。なんとなく元気がないと家族から往診の依頼があった。数日前から食欲が低下し、いつもより元気がないと同居の妻から説明を受けた。本人は何ともないと言う。ほぼベッド上の生活で食事摂取は自立しているが、それ以外のADLには介助を必要としている。5年前から脳梗塞後遺症(左片麻痺)、混合型認知症、高血圧症、前立腺肥大症および胆石症で訪問診療を受けている。意識レベルはJCS I-2。体温36.5℃。脈拍112/分、整。血圧110/80mmHg。呼吸数16/分。SpO2 96%(room air)。眼瞼結膜は貧血様でない。眼球結膜に黄染を認めない。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部では腸雑音がやや亢進し、右季肋部の触診を行うと右手で払いのけようとする。下腿に浮腫を認めない。
正しい判断はどれか。
浮腫を認めないので心不全ではない。
腹痛の訴えがないので胆嚢炎ではない。
SpO2が96%なので呼吸不全ではない。
体温が36.5℃なので腎盂腎炎ではない。
眼瞼結膜が貧血様でないので消化管出血ではない。

解答: c

109E48の解説

高齢男性の食欲低下。認知症があるため、コミュニケーションが困難なのであろう。問診がうまくいかないこともあり、全身臓器に総合的なアプローチをかける必要が生じる。ポイントとなるのは最後の部分(腸雑音が亢進し、右季肋部をさわらせてくれない)であろう。胆嚢炎の可能性があるが、精査しないと何とも言えない状況である。
臨床推論についての面白い問題である。「~なので、ーではない」という選択肢で統一されているため、対偶をとって考えれば解決する。
a 対偶は「心不全であれば必ず浮腫をみとめる」。浮腫を認めない心不全もあるため誤り。
b 対偶は「胆嚢炎であれば必ず腹痛をみとめる」。高齢者では訴えが非定型的なことが多く、一概には言えない。
c 正しい。対偶は「呼吸不全であれば必ずSpO2が低下する」。これは必ず正しいと言える。なぜなら呼吸不全の定義は酸素濃度の低下(PaO2<60Torr、SpO2<90%)であるためだ。
d 対偶は「「腎盂腎炎では必ず発熱を認める」。腎盂腎炎では発熱をみることが多いが、bで示したように高齢者では非定型的な所見をみることも多く、一概には言えない。
e 対偶は「消化管出血では必ず眼瞼結膜が貧血様となる」。急激な出血では貧血様症状がみられないことも多いため誤り。

正答率:80%

テーマ:高齢者の非定型的訴えの正しい判断

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