解決済 106B43 20.放射線科

あたらしい放射線科の感想

<はじめに>
初めて投稿致します。数年前に穂澄先生の授業で国試に合格させて頂いた者です。
現在専攻医として放射線を学んでおります。初期研修医の先生方に放射線治療についてお話する機会があり、わかりやすい伝え方を求めて彷徨っていたらmedu4さんに辿り着きました。
久しぶりに穂澄先生のキレッキレの動画(あたらしい放射線科)を視聴致しましたが、膨大な放射線科の範囲を本当に良くポイントを押さえて纏められており、改めて驚嘆しています。凄過ぎます。。。
細かすぎるかとも思ったのですが、動画を視聴していく中で気付いたことや少し疑問に思う所がありましたので共有させてください。
p.xxはテキストの該当ページです。
 
<国試的にも重要な?TOPICS>
■p.30 問題22 106B43 脳梗塞が疑われる58才男性に施行するMRIの中で最も感度の高いシーケンスを選ばせる問題
「e 拡散強調画像」が正解で、講義では「高分解能だから」と解説されています。恐らく組織分解能が高い(拡散強調画像はボヤーっとしていると指摘のある通り、空間分解能は低い)という意味で用いられているのだと拝察します。拡散強調画像は脳梗塞の超急性期で生じる細胞性浮腫とそれに伴う拡散制限を鋭敏に捉えられるという特性があり、これは組織分解能の1つと考えて良いかもしれませんが、学生さんが混乱されるかもしれないと思いましたので記載しました。恐らく内科の動画でこの辺は詳しく解説されていると思いますが、念のため。。。
 
■p.33 酸素分圧による放射線感受性の変化に関する説明
「酸素分圧が高いと分裂が活発になり感受性が上がる」という主旨のご解説でしたが、一応国際的に認知されている(=世界的に用いられている放射線生物学の教科書の記載)のは、組織中の酸素分圧が高い、もっというとDNA鎖近傍の酸素分圧が高いと電離放射線によるDNA損傷が起こった際に酸素や酸素ラジカルが損傷頻度を上げ損傷を固定するから、というものです。日本放射線腫瘍学会監修の発行物でもこの立場をとっています。「やさしく分かる放射線治療学, 日本放射線腫瘍学会監修, p184~」をご参照ください。(学生さんは学校の図書館か放射線治療室にあるはずです。。。)
もちろん穂澄先生の分裂頻度上昇に伴う放射線感受性の増加はB.T.の法則に照らせばそう解釈できますし、分かりやすさからこの説明をされたものと拝察しますが、機序としては定量的な評価に乏しくどの程度の影響を与えるのか現在でもよく分かっておりません。(もし、dominantであるという説が出ておりましたらご教授ください。)
 
以下上から国試的には酸素分圧が低い→酸素ラジカルが少ない→DNAの破壊頻度が下がる、損傷が戻り易くなる→放射線感受性が低くなる、といった解釈で十分だと思います。
ちなみに学会のまわしものではありませんが、上記の書籍は200ページ前後と薄く、専門用語の定義や解説が平易に書いてありますので、学生さんに用語集としておすすめです。学会監修ですので国試のお供としての信頼性も抜群です(笑)
 
参考1:Basic clinical radiobiology 5e, §17 https://www.amazon.co.jp/Basic-Clinical-Radiobiology-Michael-Joiner/dp/1444179632/ref=sr_1_1?adgrpid=107356485827&dchild=1&gclid=CjwKCAiA1eKBBhBZEiwAX3gqlzpvvmW4tAAXc-Zl3HwWpx7Ip8ieTMdKmT3vY6viQGp49I9ckZqAPBoCa50QAvD_BwE&hvadid=448802983104&hvdev=c&hvlocphy=1009049&hvnetw=g&hvqmt=b&hvrand=11849298194091327461&hvtargid=kwd-300242662923&hydadcr=9830_11303759&jp-ad-ap=0&keywords=basic+clinical+radiobiology&qid=1614408316&sr=8-1
 
参考2 :https://www.1ginzaclinic.com/nanobubble/radio-sensitization.html
程々に誤解なく、わかりやすい解説と思います。
 
■p.33 低酸素分圧を改善し、放射線感受性をあげる治療法としての輸血
■p.45 問題44 105E59 48歳女性の貧血を有する子宮頸癌に対する治療を選ばせる問題で「a 輸血」に対する解説
「輸血→Hb濃度↑→酸素分圧改善→放射線感受性↑」は確かに機序としては真っ当な治療戦略に思えるのですが、2つのRCTの結果はnegativeでした。以降これを覆す同種のTrialはなく、ガイドラインでも実臨床でも放射線感受性改善を狙っての輸血は推奨されていません。ちなみにエリスロポイエチン製剤を用いたRCTも組まれましたが、逆に有害事象が多く、対照群より生存率が下がっています。
参考ですが、血中Hb濃度が低いと頭頸部癌などに対する放射線治療の成績が下がる点は実際に1300人を越すcohortで示されています(Overgaad, 1988)。(ただし実際に放射線感受性が低くなるせいで成績が悪いのか、腫瘍の病勢が悪いせいなのか、それらの合わせ技なのか、その他の理由によるものなのか、全くわかってません)
 
参考1 : AW Fyles et.al., 2000 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11033184/ ←輸血しても放射線治療の効果は上がらなかったRCTのまとめ
参考2 : Henke et.al., 2003 https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/14575968/ ←エリスロポイエチン製剤入れても放射線治療の効果は上がらなかったRCT
 
国試的としては単に貧血に対する対処で輸血するでよいのかと思います。一応国試委員の先生としては、子宮頸癌の標準治療として腔内照射を行うので、その前に貧血を改善しておく必要があることを理解しているか問いたかったのかもしれません。腔内照射はほぼ確実に出血しますし、併用するかもしれない組織内照射では子宮動脈を傷つけるリスクも伴いますので、臨床的に貧血は確実に改善しておきたいプロブレムです。ちなみに自分も動脈性出血を伴う場面に遭遇しました。学生さんにそこまでの理解を求めるのは酷だと思いますが。
 
ちなみに同問題の「d アルブミンの投与」の適応に関して、「特に症状がないので適応がない」と解説されていらっしゃいます。全くその通りで臨床的にとても重要な解説だと思います。厚生労働省の血液製剤の使用指針にも記載されています。また学生さん向けに補足ですが低アルブミン血症による浮腫があっても第 1選択にはなりません。まずは低Albの原因改善+利尿剤などのvolume control が先です、というか浮腫にアルブミン製剤投与すると間違いなく内科の上級医にぶっ飛ばされるのでやめましょう。毎年毎年必ず間違える研修医がいるので国試でも問うてるのかも?
 
参考:https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/0000161115.pdf
 
■p.36 [[114F09]] 四肢の転移性骨腫瘍に対する放射線治療で最も期待される効果を選ばせる問題
正解は「a 疼痛の緩和」となっています。実臨床の頻度では確かに疼痛緩和目的の放射線治療依頼が多いので正解選択肢として妥当と思います。しかし「d 病的骨折の予防」を「メタがあるから非適応」と斬ってしまうのは危険です。実はdは実臨床で非常に重要な適応で、ガイドラインにも記載されています。骨皮質に1/2以上もしくは3cm以上の浸潤がある場合は、骨折のリスクが非常に高くなるため、例えメタが他にもたくさんあろうと予防照射が推奨されています。特に下肢骨が骨折すると患者さんのQOLは地に落ちます。
非常に残念なことですが、(某)がんセンターのような高度な施設にあっても、主治医がこの適応を知らないため放置されている患者さんが見られます。
国試受験生=来年の新研修医に絶大な影響力を持つ穂澄先生よりこのガイドラインの記載をお伝え頂ければ幸いです。ご検討ください。
 
参考:https://www.jastro.or.jp/medicalpersonnel/guideline/2016/10palliative_care.pdf
p.359~
※最新ガイドラインは2020ですが、無料で使えるのは2016年分です。内容は変わりません。
 
<国試的に重箱の隅なTOPICS>
■ p.16 問題3 [[110G03]] 放射線被曝についての正誤問題より
「a 冠動脈造影CTによる被曝量は肺の高分解能CTより多い」とあります。穂澄先生の解説で「造影なので被曝量が多い」との事ですが、造影だから多いというよりは、冠動脈を描出する為に非常に高い空間分解能(血管径が2-3mm程度、病変はもっと小さい)と時間分解能(拍動している)が必要=それだけ多くの線量が必要なのです。対抗馬が肺の「高分解能」CTなので類推はきついかもしれません。専門的には、この診断に必要な分解能を得るための線量指標が定められており、診断参考レベルといいます。CTDI(CT dose index)という物理的な線量が撮影部位毎に定められています(リンク御参照)。放射線科医として必要な基礎知識ですが、完全に国試レベルを逸脱していますので学生さんは知らなくていいです(真面目な学生さんは、こんな些末な知識も覚えようとされるので一応)。
 
参考1:http://www.aart.or.jp/data/image/JapanDRL2020_jp_1st_revise.pdf
CTDIの定義についてはp.2~
実際のCTDIについてはp.4~ (冠動脈のみで造影の文字がありませんが、普通造影以外撮影しません)
 
参考2 :https://www.icrp.org/docs/P87_Japanese.pdf
高分解能CTのCTDIはp.33
 
■p.30 問題23 [[104E40]] 正常脊椎のMRIのT 1/T2強調画像での信号強度を問う問題より
「e 椎間板髄核」は「正常臓器なので水」と解説されていますが、少し補足をさせて下さい。この設問自体は大変良問です。正常脊椎MRIの正常像は臨床的に見る頻度が高く重要だからです。なぜかというと転移、圧迫骨折、加齢性変化が頻発するからです。もちろん転移を除外せねばならんのですが、研修医の段階では、まずこれは転移を疑うほどの異常なんだと、画像を見て気付いて欲しいのです。で選択肢のeですが、椎間板髄核は親水基を多数もつプロテオグリカンを含有する組織ですので、非常に水が豊富です。だからT 1強調画像で高信号となります。が、30代頃から加齢によりプロテオグリカンが脱落し、癌好発の加齢者では軒並みT 1強調画像高信号が消失します。が、そんな中でポツンと 1箇所あるいは数カ所だけ高信号の場合は転移を疑うきっかけとなります。まあ、こういった背景があり、委員の先生は出題されたのだろうと拝察します。多分ポリクリで聞いたことのある学生さんはいらっしゃると思いますが、国試的にはオーバーワークですね。
 
■p.37 C:放射線発生装置の種類 ①リニアックの説明
恐らく誤植と思いますが、「X線または電子線を加速させ、照射する装置」となっています。リニアックは、X線を加速させているわけではなく、電子線を加速させ、タングステンなどの標的物質に衝突させた時に出る制動放射線(のうちのX線)を利用しています。ので国試的には「X線または電子線を照射する装置」でいかがでしょうか。
 
参考:https://radiological.site/archives/リニアックと照射付属機器・器具.html
 
■p.47 [[96G114]] 放射線治療と全身抗癌化学療法とを併用する目的はどれか3つ選ばせる問題
a,bが正しいのは当たり前で、抗がん剤ぶっこむのに「d 免疫機能の賦活」を選ぶ人はいないと思います。(ただ実は、免疫チェックポイント阻害薬が併用され始めていますので、現在ではこの選択肢は微妙となっています。殺細胞性抗がん剤であれば、自信を持って×としていいと思いますが)
問題は「c 正常周囲組織の傷害軽減」と「e 抗がん薬減量による副作用軽減」ですが、いずれも併用療法を行う目的としては間違っていますし、併用療法を行った結果としては、cは起こり得ますが、eは臨床上あり得ません。
化学放射線療法というのは侵襲性の上では抗癌剤単独よりも上です。特に局所侵襲性は圧倒的です。だから治療効果が同じだと思われたらまず使いません。膵癌が好例です。抗癌剤単剤vs抗癌剤+放射線治療による上乗せ効果がRCTでnegativeだったため、現在非オペ適応の局所進行膵癌の第1選択は抗がん剤です。膵癌のガイドライン見ればすぐにわかります。FOLFILINOXというかなりしんどいレジメンですが、それが耐えられないから減量して放射線治療を加えよう!なんて施設は聞いたことありません。減量レジメンかGEM単剤など、より副作用がマイルドな抗がん剤レジメンを使います。
なんでわざわざ96回という穂澄先生からすれば拘泥する必要のない些末な回の問題について取り上げたかというと、医師になる上での素養として上記のようなイメージを持っておいて頂きたいと思ったからです。
 
<最後に>
本当はこの解説すごくいいい!!!と思うところが、そこらかしこにたくさんあったのですが(なんで放射線治療で分割照射を用いるのか?に対する説明など)、それは動画を買った人のお楽しみということで控えました。個人的には知識を整理する大変良いきっかけとなりました。
 
予定してた初期研修医の皆さんへのお話は、medu4さんの動画を買って視聴!で済ませたいです(笑)。穂澄先生のやっておられる事業は、スマートでかっこいいと尊敬しておりますが、それに留まらず、初期研修医のレベルアップという面で確実に日本の臨床現場にも寄与されていると思います。引き続きmedu4のさらなるご発展を祈念しております。長文失礼しました。

回答1件

  • 専攻医の方にご受講いただいているとは、光栄です。
    また、詳細なフィードバック、とても助かります!
    ちょうど今年は放射線科の大改訂の年でして、いただいた意見を取り入れ、ブラッシュアップしていこうと思います。
    日々、大変かと思いますが、健康に気をつけ頑張ってください。応援しています!!

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  • 問題参照 106B43

    58歳の男性。2時間前に突然、右側の手足が動かしにくくなったことを主訴に家族に伴われて来院した。53歳時から職場の健康診断で高血圧を指摘されていたが、自覚症状がないためそのままにしていたという。意識は清明。体温36.4℃。脈拍84/分、整。血圧178/92mmHg。呼吸数16/分。SpO2 98%(room air)。右顔面神経不全麻痺を認める。右上下肢にBarré徴候と腱反射亢進とを認める。病的反射と感覚障害とを認めない。頭部CTには明らかな異常を認めない。緊急で頭部MRIを撮像することとした。
    この患者の病変を描出できる可能性が高いのはどれか。
    • a FLAIR像
    • b T1強調像
    • c T2強調像
    • d T2*強調像
    • e 拡散強調像
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