①試験本番まで時間がありません。板書している時間もないので、Dr.穂澄の板書がすでに入ったPDFを配布してください。
②私は昔から目で見て覚えるタイプの人間なのです。書いて覚えるタイプではありません。そのため、板書は意味がないと思うので、穴埋め済みのテキストを配布してください。
③私は文字を書くのが苦手です。頑張って書いてもミミズがのたうち回ったような文字になってしまいます。すでに書き込まれたテキストを使って勉強したいです。
試験本番まで時間がない人、書くよりも目で見て覚えるタイプの人、文字を書くのが苦手な人、学習者にはたくさんの方々がおられます。こうした個性は尊重すべきと考えますし、そうした事実が現在あることは真実でしょう。最大限の配慮をしたい気持ちはヤマヤマです。
では、すべての事実がすでに文字情報として入っているテキストを解説した講座があったら、受験勉強としては最善なのでしょうか。例えば市販の有名な参考書であるYearnoteを、とある講師が隅から隅まで解説した講義が存在したら、それを受講することで成績が急上昇するのでしょうか。------ 答えはNoです。
学習には過程〈process〉が大切です。パソコンにメモリーカードを差し込むかのように、すべての情報が一気に脳に入ってくれば言うことないのですが、我々人間の頭はアナログですので、それは無理というもの。対象を噛み砕いて、自分にわかるレベルまで落とし込み、解釈しながら頭のフィルターを少しずつ通過させないと、その事項を暗記することはできません。
さらには過程〈process〉を経た痕跡〈trace〉も必須です。人間の脳は生命維持に必須でない出来事や、興味のない出来事を無条件に長期間保持しておくことはできませんので、一定期間が経過すると暗記した事項は忘却します。しかしながら、それを再度思い出す際には、前回覚えようと努めた際の痕跡をたどることで記憶が強化されるメカニズムが働いています。
つまりはYearnoteのような全て事前に情報が書いてあるものを暗記しようと思っても、そこには過去に自分自身で苦闘した痕跡がないため、なかなか捗らず、記憶には定着しないという事態が発生します。Yearnoteは調べ物学習に適した書物であり、それをベースに暗記するべき教材ではありません。
これは昔から一定数の方が実施しているのですが、誤った学習です。理論的には分かります。誰がビデオ講座を受講しても9割方の板書内容は同じになるので、だったら文字がキレイな人が受講してとったノートをコピーさせてもらえば時間節約できますね。しかしながら、ここには大きな落とし穴があります。上記processを経ていないため、同じビデオ講座のテキストであっても、すでに完成品を受け取ってしまうとYearnoteを覚え込むのと同じ現象になってしまうのです。また、自分自身のtraceがありませんから、忘却時に見直しても記憶として蘇りにくいです。
理論では説明できない現象が、実際の学習では往々にして発生してきます。だからこそ、成績に個人差があるわけですし、勉強を一生続けなくてはならないのです。全受験生がロボットのように、同一プログラムで個体差なく同じ成績が取れてしまっては、そもそも試験という制度が崩壊します。各分野で試験という概念が現存している以上、単純な近道は存在しないと断言できます。
「他人のノートをコピーしてビデオ講座を受講しても効果は低いよ」と各所で述べてはいるのですが、残念ながらなかなか撲滅には至りません。学習の成果が目に見えて現れてくるのには数か月〜数年かかります。「成果が出ないから勉強法を変えよう!」「今すぐに結果を出さなくてはならない!」と思っている方々は大抵焦っています。そのため、勉強法についての吟味をあまりせず、目先だけの時間節約にこだわり、突発的に思いついた正しくない方法を選択してしまうのです。私の声がジワジワと広がり、やがて誤った学習法が撲滅される日を願ってやみません。
現在は募集していませんが、medu4は過去に個別指導を行っていました。私自身、少なく見積もっても500人以上の医学部生を担当し、1万時間以上を個別指導に費やしています。どの学生を担当するにあたっても初回や第2回で行うのは板書チェックです。medu4の講座を受講した方の板書は大きく以下の5つのパターンに分けられます。
①穴埋めすらせず、全く何も書いてない。映画をみるかのようにビデオ講座を眺めていただけ。
②穴埋めのみしてある。私が講義内で行った板書は書いていない。
③穴埋めと私が講義内で行った板書のみしてある。
④ ③に加え、私が板書していなくても講義内で口頭で述べたことまで書き留めてある。
⑤ ④に加え、自身で調べたことまで詳細に書き込んである。
非常に多くの医学部生の個別指導を実施してきて、驚いたことがあります。それは、①のタイプが案外多いことです。これまで学習習慣がなかったのか、ビデオ講座を受講するという意義が理解できていないのか。理由はたくさんありますが、とにかく①のパターンの人は成績が全く伸びません。ですので、最低ラインである③を目標に受講スタイルを変えるように指導します。
「書き込み済みのテキストが欲しい!」的なお問い合せをしてくる方は②が多い印象です。このタイプの方々は頭のどこかに「講義はすでに全て書き込んであるテキストで受講するものだ」という先入観・固定観念がありますから、medu4の講座を受講するにあたっても、まずビデオを止めて全て穴埋めを転記してしまうのです。これは非常に好ましくありません。前述したprocessが勉強では重要ですので、穴埋めを転記するという作業に意味はないのです。しかし、この転記作業が必須と誤解してしまうと「だったら最初から穴埋め済みのテキストを公開してほしい」という要望につながるのです。断じて違います。コマメにビデオを止めて、私の解説を聞きながら、自身で斟酌しながら穴埋めをしていくのが正しい受講法になります。
③は最低ラインであり、大半の受講生が行っている学習方法だと思います。これでも成績は上昇していきますが、欲を言えばよりtraceを残して欲しい。④が最も理想的なラインです。もちろん口頭で説明しただけの事項は重要度としては低いですし、写経ではないので全て書きとるのは苦痛で時間も浪費します。ですので、適宜、記憶の糸口となりやすい発言や、自身が苦手とする点を取捨選択して書き留められるとよいでしょう。
なお、⑤はやりすぎです。完璧主義の人に多いのですが、「テキストを充実させること=勉強」と誤解している節があり、このタイプも成績がある地点から伸び悩む印象です。Yearnoteにムチャクチャ書き込みをしている人と同じタイプですね。一番大切なのは試験で点をとることです。昔小学校のころ、美麗にまとめたノートを先生のところに持っていくとハナマルを付けてくれて褒められたものです。が、大学生となった今、そんなことをしても誰も褒めてくれませんし、意味がないのです。覚えるべきところをピンポイントに脳内に詰め込み、いつでもoutputできるようにしておくことが肝心であり、outputできない知識や試験での出題可能性の低い知識は貴重な時間を費やす必要性に乏しいのです。ただでさえ、国試対策の100%を私はmedu4のテキストに詰め込んでいます。これ以上の知識は試験対策上は不要です。時間を使ってアレコレ調べて、複数の教材を比較して矛盾をあえて自分から探して「どちらが正しいですか?」ループに陥って、第三者を巻き込んで論争に発展し、...... といった不毛な循環とはおさらばしましょう。『あたらしいシリーズ』であれば、穴埋めが出来て、臨床像が説明できて、練習問題が全問正答できれば、おしまいです。これ以上なく明快なはず。
「では、穴埋め済みのテキストと、穴埋めがされていないテキストの2つを配布して、受講生が各自の判断で使い分けたらどうか」という意見があります。あるいは「こっそり料金をお支払いしますので、僕だけにテキストを送ってください」といった問い合わせもあります。
むろん実現可能か不可能か、といったら実現可能です。しかし、これだけインターネットやSNSが発達した世の中ですので、「あなただけ」と言って何かを実施しても、100%周囲に広まります。
すでにここまでこの記事を読んでくださった方は書き込み済みテキストの弊害について理解してくださっていると思いますが、全員が読んでくれているわけではありません。隣で書き込み済みのテキストを使って勉強して「俺は時間節約してるから!」などと宣う受験生がいたら、真面目にこれまで穴埋めをしてきた受験生も流されてしまうでしょう。
(もちろん全員とは言いませんがかなり高確率で)そうした安直な学習は時間節約ではなく、時間の浪費です。意味がない勉強は何十時間やっても成果につながらないためです。成果の出ない学習を誤って効果的と誤解して、貴重な時間を消耗してしまう受験生が増えるのは問題です。極端な話、受験生の満足度を向上させようと思ってmedu4が行ったサービスが裏目に出て、「medu4の講義を受けても結果が出ない」といったクレームにつながってしまうかもしれないのです。
以上の観点から、どなたであっても、書き込み済みのテキストは配布していません。
私は無駄が嫌いな人間です。1mmであっても自分が無駄なことをしていると思うと悲しいです。ですので、勉強に関わらず日常生活に置いても定期的に内省を繰り返し、無駄なことを省けるよう尽力しています。そんな私が「穴埋めしてください」「板書してください」と懇願しているわけです。ここには確固たる意義が存在します。私を信じて、日々勉強を続けてください。
我々の脳がアナログである以上、知識の習得には一定の労力が必要となります。No Pain, No Gain.〈痛みなくして成果なし〉とはよく言ったものですが、勉強はまさしくそれに該当します。この勉強という対象と、医学という領域、日本国の医学部生の特性、すべてを考慮した上で最も無駄を減らして、成果を出せる形にテキストと講義を最適化しています。10年以上に及ぶ医学部生指導から、何度もテキストを創作しては棄却して、を繰り返し、今の最適解にたどり着いています。
よく考えてみてください。1コマ受講するのに何十時間もかかるわけではありません。コマメにビデオを止めて丁寧に板書をとったところで、講義時間の2倍程度で受講は修了することでしょう(1コマ60分であれば、90分〜150分程度が標準的な受講時間です;倍速再生を適宜行えばもっと時間を短縮可能です)。今日1日、あなたは24時間をどう過ごしましたか? この1時間程度をケチらなくてはならないほど、他に忙しいことがありましたか? ここ数日はたまたま忙しかったかもしれませんが、数か月に渡って恒久的に忙しいですか? 結局スマホをいじったりして貴重な時間が逃げていっていませんか?
すべてはあなた自身の最短コースの成果のため。日々大変かと思いますが、ともに頑張って歩んでまいりましょう。
穂澄
この記事で述べた思考法について動画でお話ししたものが以下になります。本記事では具体的な質問への回答として文字で示してまいりましたが、以下の動画ではもう少し高次な思考法的な解説をしています。是非御覧ください。