110回医師国家試験・総評

2016年2月6日から8日の3日間にわたり、第110回医師国家試験が施行された。今回の試験がどんなものだったのか、また今後の国試に向けてどう対策をしていけばよいのか、徹底的に解説する。

①概観

110回医師国家試験を一言で言い表すなら、「多様性〈diversity〉」である。本当によくぞここまで多彩な作問ができたものだ、と感心してしまった。マニアックな出題もあれば、日常的生活の中での医学と関連するライトな出題もあり、充実していた。

ただし、どんな難問も無理のない範囲の出題であり、良問が多いと感じた。従来の難問は「君たちはここまで対策できてないでしょ!」的な重箱の隅をつつく意地悪な出題で正答率を下げていた。しかし、そうした難問も過去問をバッチリ対策してくる次年以降の受験生には常識となってしまい(悪しきインフレ現象である)、結果的にどうでもいい細かな知識ばかり持った研修医が増えることとなった(現場の上級医クラスからよく耳にする意見である)。知識はもちろん大切だが、実際の医療を行うにあたり貢献度の低い知識は覚えさせても意味はない。110回では、難問であったとしても、ベースとなる医学的素地をきちんと構築できている受験生にとっては取り組みやすかった。

また、その科に進まなかったとしても知っておくべき専門性の高すぎない出題も増えている。これは産婦人科やマイナー科で顕著であった。医師免許取得後に初期研修を経て選ぶ科は原則として1つである。その科について専門性を高めていくこととなるが、そうはいっても全科当直などの際に非専門領域の疾患と相対さねばならない機会は必ずある。手に負えない疾患と判断したならコンサルトすることが望ましいが、それ以前の基本的な対処を一人ひとりの医師ができるようにしてほしい、とのメッセージと考えられる。

一方で、必要悪的な出題も散見されている。すなわち本当は背景に専門医クラスの疾患があるのだが、診断をつけることまでは要求せず、受験生の思考力を試そうとする問題である。こうした問題は正答率が下がることを出題者もおそらくは認識しており、それでもなお、受験生に考えぬいてほしい、という意図を感じる。医師国家試験は全問正答せねばならない試験ではない。考えぬいて選んだ答えがたとえ誤っていようと、それはそれで合否に影響しないのでまぁよいか、ということなのだろう。受験生にとってはたまったものではないが、医師国家試験の過去問は諸君の後輩たちの恰好の学習教材となる。広い心で許そうではないか。

②形式

現行の国家試験は102回で形式がほぼ固まり、マイナーチェンジを繰り返しながらも、同形式で出題され続けてきた。今回の110回も従来と同形式であったため、受験生に動揺はなかったようだ。

A type(1つ選ぶ問題)、X2 type(2つ選ぶ問題)、X3 type(3つ選ぶ問題)の出題数も109回とほぼ同じである。なお、L type(6択以上の問題)として8択の問題が2問出題された。

厳密な数値を問う計算問題は110B62110D60に2問出題があったが、両者ともそこまで難しくはなかった。

③難易度

全体的な難易度は「標準的」であった。難問も適所に配備してあるが、それを落としたところでしっかりとリカバリーできるような鉄板問題も用意してくれている。ただし、すでに述べたように従来型の出題枠にしばられない多彩な出題があったため、どの問題も一筋縄ではいかないと感じた受験生が多かったようである。誰にとっても自分の受けた国家試験だけは難しく感じるものだ。あくまで客観的な視点から評価すると標準的な難易度と言える。

ブロックごとの難易度についても言及したい。なお、必修ブロックには当然ながら正答しやすい問題が多いが、あくまで必修としての難易度を示した。

ブロック 日時 問題 難易度
A (1日目)9:30~11:30 各論60問 やや難
B (1日目)13:15~15:00 総論62問 標準
C (1日目)16:00~17:00 必修31問 標準
D (2日目)9:30~11:30 各論60問 標準
E (2日目)13:00~15:00 総論69問 やや易
F (2日目)16:00~17:00 必修31問 やや易
G (3日目)9:30~11:30 総論69問 標準
H (3日目)12:45~14:00 必修38問 標準
I (3日目)14:40~17:00 各論80問 やや易

幕開けとなるAブロックにやや難問が多く、冒頭からダメージを受けた受験生もいたようだ。一方、2日目は比較的ライトな出題であった。3日目はIブロックに解きやすい典型的問題が多く含まれていたため、救いとなった。

④科目ごとの出題

科目ごとの出題数をグラフにした。109〜100回の過去10年分の各科の出題割合を100%とした際に、110回の出題数がどれほどかを視覚化したものである。

110souyou_kamoku

一見して老年病の出題が急激に伸びていることがわかるだろう。110G28のような問題である。高齢化の進む日本では老年病についての学習は避けて通れない道と言え、今後もますます出題がふえてくるはずだ。
内分泌代謝と放射線科の出題は少なかったが、これらは一過性のものであろう。
他の科目はほぼ例年並みの出題数となった。

⑤トピック

ここからは具体的に問題を挙げて、今回の国試のダイジェストをしていこう。

・まず何と言っても今回の国家試験では外科復権が大きい。受験生が自習室にこもってしまい、手術の見学に来てくれないのを外科の先生たちが怒っているのか? とまで感じさせてしまうほど出題数も多く、難易度も高い問題が散見された。110B39110D11などが良い例である。

・今年に限ったトピックではないのだが、5択に救われる問題はやはり多い。110E41は正答率は高いのだが、はたして選択肢なしに「手指衛生」と答えられるだろうか。さすがにこの状況で無線LANが欲しいと言い出す現代っ子はいないことを祈るが。

・過去問の一歩先をゆく出題も多い。こうした問題は「よしきた!」と思っても、「あれ、解けないな」と意気消沈してしまうものだ。例えば110G33では不均衡型の胎児発育不全で脳血流が相対的に増加する、という事実だけ知っていても正答にはいたらない(実は95B2でヒントはあったのだが)。

・かつて出題されて、それ以降沈黙を保ち続けていた問題がふと出題されることがある(『復刻問題』と呼んでいる)。110D15では82B85以来となる抜毛症〈抜毛癖〉、110G53では98A25以来となる肥厚性幽門狭窄症の輸液組成、110I30では92F9以来となる急性心筋炎が出題された。こうした問題は直近の過去問数年分では対策が非常にしにくい。早期から臓器ごとの丁寧な学習開始を呼びかけたい。

・総論ブロックの最後に出現する長文問題では従来以上の分野横断がみられた。110G66〜68がよい例だろう。心不全増悪の原因推論→病状改善後の病棟対応→黒色便出現時の対応、と目まぐるしくテーマが変化する。文章量が膨大な長文問題も多く、日頃から丁寧に文章を読む基礎体力と、必要な情報をピンポイントに拾い読みする方法論を両立させる必要がある。

・プール問題(過去問とほぼ同じ出題)は50問程度であった。一見少なく感じるかもしれないが、これは「ほぼそのままの問題」を指しており、過去問のエッセンスを複数統合して解決できる問題も含めれば80%(すなわち400問)以上の得点は十分に見込める。どれほど医師国家試験が変貌を遂げようが、過去問研究が最重要であることは揺らがない

⑥必修

・全体的にマイルドな出題で、確実に80%は押さえて欲しいという出題委員の配慮を感じた。むろん110C16110H27といった伏兵もいたが、ここで6点を落としたとしても他で十分に挽回できたはずだ。

・臨床実習を重んじる斬新な出題が必修では例年あるが、今年は110F15に着目したい。上腕三頭筋皮下脂肪厚が体脂肪を反映する、という事項だが、外科や栄養に関する出題が増えてきている今、ある意味必然な出題であったとも思われる。

・繰り返し問われたのがGCS。必修では108F20を初出とし、109C8でも問われていたため対策はできていたであろう。本年は110E67で出題があった直後に、必修110F8でみられた。国家試験では同一年に同一事項の出題があることも稀ではない。試験が終了した後も不安材料は軽く確認しておくべきである。

・109回から長文化している英語問題だが(109F25参照)、今年も110C20で出題された。だが、日本国医学部生の英語力をナメてもらっては困る。この問題はあまりに簡単すぎて差がつかないはずだ。次回以降はもう少し本格的な長文読解を期待したい(2連問をすべて英語で、などどうだろうか)。

⑦111回以降に向けて

111回医師国家試験は4年に1回の改訂となる医師国家試験出題基準の改訂年となっており*、新ガイドライン下で問題が作成されることとなるであろう。また、112回からは現状の3日間の実施から2日間の実施へと短縮され、出題数も400問へ減少することが方針として打ち出されている。10年の安定期を経て、次回からの医師国家試験はまた激変の時代を迎えることとなりそうだ

*2016年8月追記:新ガイドラインは2016年に発表されたが、112回からの適用となるようだ。

今回(110回)の多彩な出題もその布石と考えられる。100問のスリムアップを控え、ぜい肉に該当する従来型のワンパターンな問題を排除し、真に受験生の思考力と知識運用力を問う問題を増やしていこう、という思惑なのだろう。

111回以降を受験する方々へのメッセージは3つである。

(1) 医学的思考コアを養成する。
 臓器ごとの学習をしているとただでさえ覚えることが多くて嫌になってしまうこともあるだろう。今回の国家試験でも、新出疾患・新出用語が数多く姿を見せた。Hailey-Hailey病、Bankart損傷、Chagas病、ボルテゾミブ、ブラッグピーク……などなど(このうちいくつを知っているだろうか)。最新の国試に出題された、ということはすなわち全国の受験生が次年度は対策をしてくる、ということである。これに加えて従来の疾患も頭に入れねばならない。そうなると頭はパンクしてしまう。また、時間がいくらあっても足りないだろう。
 どうか、すべての事項を覚えようとしないでほしい。基本となる疾患や病態生理を確実に構築し、「医学の考え方」を頭のなかに作ってしまおう。これを『医学的思考コア』と呼んでいる。どんな新出事項が登場しても、このコアから辿って、自分の頭のなかを整理するのが望ましい。この『医学的思考コア』を5年生のうちから地道に積み上げるのが王道な医学の勉強である。

(2) 日常に医学の引き出しを作る。
 冒頭でも述べたように、国家試験では非常に多彩な出題がされる。飛行機に乗った時にきちんと機内アナウンスは聞いているだろうか。日本便だけでなく、世界中どこへ行っても「酸素マスクは親が先に装着するように」という指示がされる。どうしてだろうか(110A7)。このように日常生活の諸事項を医学と関連付け、興味を持って学習をするのが望ましい。友人同士と雑学を披露しあってもよいだろう。こうした日頃の興味が国家試験という過酷な戦いを乗り切る一助となるのだ。

(3) 過去問に始まり過去問に終わる。
 国試の過去問は最高の学習教材だ。何より毎年新作されるし、そこらの有名な成書よりはるかに多くの著名な先生方が作成されている。校正やチェックも驚愕すべきほど厳密だ。4年生や5年生から基本的な国試の問題を解き始め、6年生の夏までに大方の過去問は解けるようにしておこう。ただし、それで終わりではない。1〜2周しただけでは国試の深みに到底達したとは言えないのだ。さらに回数をこなし、時には先輩医師や友人、Youtuberの助けを借りて深くまでダイブしてほしい。国家試験勉強の最後は模試でもオリジナル予想問題でもない。国家試験の過去問で国試の勉強を締めくくるのが正しい。

⑧最後に

3日間の過酷な試験を乗り越えた受験生の方々へ。本当にお疲れ様でした。4月からの新生活に向け、今はゆっくり休んでください(でも休みすぎて頭がスッカラカンになっている研修医を4月によく目撃するので、最低限の勉強だけは続けてください)。

また、次年度以降の受験生の方々へ。上にも記したように国家試験は今後変化の時代を迎えることが予想されます。どう変化するか、今は知る由もありませんが、1つ確実なのは確実な医学的知識の習得は将来の医師人生の糧となる、ということです。ぜひとも早期から王道な学習を開始し、将来の目標への道程を明確にしてください。私たちmedu4も変化する国試業界をリードしていけるよう、講義力・教材力・情報力にさらなる磨きをかけて皆様とともに歩んでまいります。

2016年2月8日 medu4 穂澄

◎合格発表をうけて◎

合格発表の結果を示す。
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(採点除外問題のリンクはこちら:110A28, 110C16, 110D43, 110E38

合格率は91.5%と、過去40年の最高値をマークした。以下のチャートを見てほしい。
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過去10年では101回で底値を打っているが、104回ごろから(106回を除き)合格率が単調増加にあることが分かるであろう。
108回までは8,500人前後であった受験者数が、医学部定員増加の影響などにより109回では約9,000人、110回では約9,500人と増加している。これは0.1%の合格率におよそ10名の医師が含まれることを意味する(筆者はこの0.1%に重みを感じている)。今後上昇の一途をたどるのか、ある回で突然合格率が急降下するのか、動向を見守っていきたい。

続いて、合格基準の推移に移る。必修は毎年必ず80%であるため、グラフには含めていない。
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106〜109回は合格基準が高かったが、110回は105回以前の水準に戻った印象だ。110回は合格基準を下げ、その代わりに合格率を上昇させる、という形となった。当たり前だが、国家試験は必修を除き、相対評価だ。本番でたとえ「できなかった!」と感じたとしても、全国の受験生が得点できていなければ合格基準は下がる。また、国の方針で合格率を上昇させることになれば、たとえ得点を確保できていなくても合格の運びとなるかもしれない。本番ではとにかくあきらめないこと。最後まで全力で問題にぶつかってほしい。
なお、11回の国試中実に9回で臨床問題より一般問題の合格基準が低いことを確認されたい。特に近年の国試では臨床問題で斬新な問題が出題されたとしても、選択肢から消去法で導くことが容易な問題が多く、臨床は比較的得点が取りやすい傾向にある。対する一般問題は臨床文というヒントがないため、「知らなければアウト」なこともあり、得点が低くなりがちである。112回では一般問題が減少することが謳われているが、少なくとも111回の受験生には一般問題対策を入念に行うことをすすめる

大学別の合格状況についてみてみよう。新卒・既卒合わせて98%を超えたのは以下の5大学である。うち、和歌山県立医科大学、順天堂大学医学部、東京慈恵会医科大学は新卒生の合格100%も達成している。

 99.1% 和歌山県立医科大学、自治医科大学
 98.5% 東京医科大学
 98.2% 順天堂大学医学部、東京慈恵会医科大学

他方、85%を切る大学もある。また、合格率下位15大学のうち、2/3が私立大学という事実もある。大学のカリキュラムや学生どうしの結束・情報共有、など様々な要因でこうした差が生まれていると思われるが、日本の医療水準をさらに高めるためにも、大学別合格率は均一となることが理想と考える(均一な教育をせよ、という意味では決してない。日本各地どこでも良質な医療を受けられることが理想だと言いたいのだ)。

最後に、新卒と既卒の合格率についてのチャートをみてみよう。「最大受験回数」とは、卒業後、何回国家試験を受けられるか、を意味する(すなわち「10回〜」に含まれる受験生も実際に10回以上受験しているかはわからない)。
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新卒の合格率が94.3%であるのに対し、既卒は全体で60.1%となる。また、2浪以上(3回〜)すると既卒全体の平均よりも下回るという結果になった。既卒生の合格率が低く出る理由は非常に多岐にわたるが、1つには「適切な学習方法・学習習慣が身についていない」ということが挙げられよう。ここで留意して欲しいのは「学習教材が間違っている」というわけではないということだ。ここ5年間で、医師国家試験対策の教材やビデオ類はかつてなく進化した。いまどき、国家試験対策として分厚い内科学書を読んで独学している学生はいまい。みなほとんど同じ教材を学習しているのである。ではどうして個人差が出るのか。それは『勉強のやり方と学習に確保できる時間とその能率』がちがうからだ。合格のためには正しいやり方で、できるだけ多くの時間を、極力集中して学習する必要がある。この3つのうち、どれか1つでも欠けると十分に学習成果が現れてこない。現状の医学教育では実際の医学知識を教えることに終始してしまい、そうした点まで踏み込むことができていないのが問題といえる。medu4では「具体的なやり方」、「勉強時間の確保法」、「学習密度の高め方」にまで踏み込んで教材作成や実際の指導を行っていく所存だ。

*     *     *

最後になりましたが、110回合格者の皆様、本当におめでとうございます。良医になるためには、最初の数年が非常に重要です。一見不毛な下積みに思えるかもしれませんが、初期の医師としての生活習慣はその後の数十年を決する重要な因子です。初期研修から全力でがんばってほしいと思います。
また、111回以降の受験生の方々へ。最後のチャートでお示ししたように、とにかく早期に決することが国試は重要です。「後で後で」と思っていると、基礎力すらままならない状況ですぐに国試がやってきます。早めに学習を開始し、一歩一歩成長していって下さい。応援しています!

2016年3月22日 medu4 穂澄

109回医師国家試験・総評

2015年2月7日から9日の3日間にわたり、第109回医師国家試験が施行された。現行の国家試験は102回で形式がほぼ固まり、108回までの7年間、同形式で出題され続けてきた。109回も108回をほぼ踏襲する形で実施され、形式面での受験生の動揺は無かったと言えよう。なお、2018年に実施される112回からは現状の3日間の実施から2日間の実施へと短縮され、出題数も400問へ減少することが方針として打ち出されている。つなぎとなる110回と111回はこれまで同様の構成が予想されるため、入念な過去問対策が要求される。

109回医師国家試験を一言で言い表すなら、「盤石」である。特に奇抜な問題もなく、医学知識が確実に得点に反映される良問から構成されていた。80%という絶対基準を要求する必修問題にも失点を誘発するような悪問はなく、本番での番狂わせが起こりにくかった(過去には医学とは関係のない単なる日本語の読み違え等で辛酸をなめた受験生もいたが、それと比べると良心的な出題になった)。これだけの良問が揃うとなると、現在となっては確かに3日間、500問という大量の出題は不要なのかもしれない。出題数を増やせば増やすほど、受験生の体力的負担は増えるが、その分1問あたりの重みは軽減され、不用意なミスで不合格となってしまう確率は減る。真に優秀な人材が医学とは関係のないミスで1年間医療の現場に出るのが遅れるのは国にとって不利益である。ゆえに大量な問題数を用意していたのがこれまでの国家試験であった。ただし、現在のように良問のみで構成された出題であれば出題数が100問程度減っても、試験としての識別能は担保されると言える。

「盤石」という言葉には「安定」の他、「堅固でびくともしない」という意味もある。109回国家試験が良問から構成されていたからといって、それは決して簡単だったり、基本問題が多かった、というわけではない。当然ながら難問も多く、どれだけ深く考えられるか、思考力が試される問題も多かった。110回以降の指標とすべく、以下、具体的に振り返っていこう。

①分野ごとの出題数

全500問の内訳を以下に示す。

109_bunya

内科が4割強、小児産婦・マイナー・公衆衛生がそれぞれ15%程度といった分配で例年と大差はない。マイナー領域は107回まで90問前後出題されていたが、108回から減少傾向にある。「その他」という項目には、救急・麻酔・外科・栄養・老年病・中毒・医学素養が含まれる。

注意して欲しいのは内科をすべて正答しても4割程度しか得点できない、という事実である。確かに内科は全分野にその「考え方」を活かすことができ、医学の礎と呼べる領域なのであるが、あまりズルズルと内科の学習を引きずってしまうと得点につながらない。理想としては6年生の夏前までにある程度、内科の目処を立てておくべきである。医師国家試験はオールラウンドプレーヤーが勝利する試験である。特定の分野に強くても、満遍なく得点できないと辛い。

もう1点、上記「その他」の領域のウェイトが近年は増加傾向にあることに留意して欲しい。1つ1つの領域の出題数は多くないため、系統的な学習が困難なのであるが、高齢化する現代の日本を反映し、老年病、高齢者の非定型的な主訴、入院から退院の流れ、入院中の栄養管理と急変、といったテーマでの出題が散見される。以下の問題が好例だ。→109B25

②科目ごとの出題数

①では大きなくくりで分野ごとの出題数を見てきたが、ここでは科目ごとの出題数を見てみたい。

109_kamoku

赤が内科、緑がマイナーである。内科では消化器・循環器・神経が、マイナーでは精神科と泌尿器科の出題が多い。そして産婦人科は単独での出題数もかなり多い。

一瞥して気づくのは公衆衛生の出題数が圧倒的に多いという事実。1科目あたりのコストパフォーマンスは抜群であるため、直前期は時間をとって入念に対策したい。とはいえ、公衆衛生の出題は一般問題が大半であるため、この66問を仮に全部押さえたとしても、臨床や必修で失点してしまうと合格には届かない。

あまり見かけない分類かもしれないが、「医学素養」という項目で17問の出題がある。これは常識的センスさえ持ち合わせていれば普通は正答できる問題であり、いわゆる「サービス問題」である。以下のような問題が好例で、必修問題に出題が多い。→109C5

こうした問題を公衆衛生の出題とする参考書が多いが、この向きに筆者は反対である。別に勉強しなくても常識で取れるサービス問題をあえて勉強する必要はない。

③難易度ごとの出題数

109回の全500問につき、難易度を10段階に割り振った。Lv.1が最も平易な問題(ほぼすべての受験生が正答可能)で、Lv.10が最難関である。

109_lv

109回の合格基準は、一般問題が64.5%(129問)、臨床問題が67.5%(135問)、必修問題が80%(60~87問)であるため、簡単に言ってしまうと最大で351問を正答すれば合格できる計算となる(必修問題は1点のものと3点のものがあるので幅が出ている;うまくすれば最小で324問の確保で合格可)。この事実を上記の円グラフに照らすと、Lv.3の問題まで確保できれば大丈夫と言える。むろん、人間はケアレスミスを犯すため、Lv.1の問題も数問落とすであろう。が、消去法や勘によりLv.4~6の問題も数問確保できることを考えると、やはりLv.3までの問題を落とさないようにすることが重要である。

ではLv.3の問題はどのような問題か。以下に3問ほど挙げておこう。勉強を始めて間もない方にとっても、そんなに難しい印象は受けないはずだ。これは国家試験に難問対策は不要、ということ。基本的な問題を確実に落とさずに対処することが肝心だ。ただ同時に、このレベルになってくるともはや常識的レベルでは太刀打ちできず、過去問対策を中心とし、ある程度の勉強が必須であることにも気づいてほしい。

Lv.3問題の例 →109D51109G31109I40

さて、Lv.10の問題とはどんな問題なのか。興味を持っている方も多いであろう。以下に1問挙げておくが、難問であり、捨て問と言っても過言ではない。こうした捨て問を見極める眼力を養っていくことも重要である。

Lv.10問題の例 →109B32

④新作問題・プール問題

以下の2問を解いてみてほしい。 →109A13109B26

109A13は2013年に4類感染症に追加されたSFTSウイルスが題材となっており、109B26では膵臓に異所性移植が可能であることを出題している。両者とも近年のトピックに該当し、国試では初めて出題された。こうした問題(以下、新作問題と呼ぶ)は大学での講義や実習、または新聞等を通じて学ばねばならず、過去問を対策していても得点は不可能である。

一方、以下の問題はどうだろうか。解いてみてほしい。 →109G38

ESWL後の合併症だが、受験生の正答率は悪い。しかし、このテーマは101H50で出題されている。破砕した結石が尿管につまった、という事実が分かっていれば、109回でも答えに辿り着いたはずだ(eの誤答が多かったが、尿管の障害であるから、「直後」に腎後性腎不全が起こるはずがない;そこまで見えてくれば本問で「直後」と明記してある理由も解せる)。

こうした、過去問の視点を応用して解ける問題をプール問題(ほぼ過去問そのままの出題)と対比して、筆者は「インスパ問題」と呼んでいる(inspireされた問題、の意)。

気になるのは、新作問題:インスパ問題:プール問題の比率である。109回でその比はおよそ1:20:10であった。純粋な意味での新作問題(言ってしまえば「知らなければ一巻の終わり」問題)は500問中16問しか出題されていない。その他の問題は過去問ほぼそのままか、何問かを組み合わせて考えれば正答に至る問題であったのだ。

もうお分かりであろう。いたずらに新しい知識を求めるのではなく、過去問をしっかりとこなそう。そして、単なる過去問の暗記ではなく、インスパ問題まで確実に対応できるよう、深くまで踏み込んで学習しよう。これが現在の国家試験の一番の攻略法である。

ただし、机の上でひたすら過去問を解き続けていても頭には入ってこない。百聞は一見にしかず、とも言う。講義や臨床実習で五感を通じてinputすることでさらに理解が進むであろう。

⑤合格発表

合格発表の結果を示す。
109_goukaku

(採点除外問題のリンクはこちら:109B13, 109B14, 109C11

108回(合格データはこちら)と比べ、合格に必要な得点率はほぼ変化ない(一般問題は-0.8%、臨床問題は+1.3%)。合格率は0.6%上昇して91.2%となった。107回から2年連続で合格率の上昇があり、過去40年間では最高値をマークした。傾向も合格率も抜群の安定性がみられており、110回の受験生にとってはビッグウェーブと言えよう。

⑥まとめ・110回へ向けて

そろそろまとめに入ろう。今回の国家試験から言えることを箇条書きにしてみる。

  • 盤石な安定期に入り、出題の大半が良問となった。
  • 500問すべてを正答する必要はなく、平易な問題から350問程度確保すれば合格できる。
  • 正答率の低い難問は100問程度。残りの400問は基本的な出題。
  • 超斬新な問題はごく一部であり、大半が過去問のエッセンスを使用して正答可。
  • とはいえ、単なる過去問の丸暗記では太刀打ち出来ない難しさがある。

 

現状、ほぼすべての受験生が均一に大学や予備校の講座を受け、市販の過去問集で演習を行ってから国試に挑む。にもかかわらず、90%の人が合格し、10%の人は不合格となってしまう。この差は生まれ持っての頭の良し悪しでは断じてない。過去問を過去問としてだけ解き、ただの丸暗記に終わらせてしまうのか、一歩も二歩も踏み込み、その本質を追うのか、の違いである。自分の頭を使って真に考える時間を確保したい。深くまで考える習慣がつくなら、1問に1時間を使っても全く惜しくない。中途半端に1問1分で60問を解き流すよりはるかに有用である。

110回対策としては109~107回の直近3年分を中心とし、100回以降の10年分を入念に検討することをオススメする。当、medu4のホームページでも100回以降の5,030問をすべて閲覧できる。5,030問と聞くとすごい量に思えるが、1日10問で500日、1日20問でも250日で完了できる。一歩一歩、着実にがんばってほしい。

臨床実習と医師国家試験対策がうまくリンクし、医学部生がムリ・ムダの無い学習を行うことで日本の医学教育・医療水準がさらなる飛躍をとげることを願ってやまない。

108回医師国家試験・総評

2014年2月8日から10日の3日間にわたり、第108回医師国家試験が施行された。108回を一言で言うなら「鬼」である。1問1問の難易度もさることながら、その構成までが鬼畜の域に到達している。さらには天候までが鬼の形相を呈し、医師国家試験の到来を待ちわびたかのように全国各地で雪が降った。その影響で、東北会場の一部では試験開始が遅れるというハプニングもあり、受験生の心理的プレッシャーは並大抵でなかったはずだ。

『構成が鬼』とはどういうことか。国家試験はご存知の通りAブロックからIブロックの9ブロック、計500問から構成される。そして、3日間の試験で、各日3ブロックずつを消化する運びとなる。この9ブロック内で難易度が均一ならばよいのだが、まれに難しい問題が1ブロックに固まって出題されることがある。それが、108回の場合、AとIブロックだった。つまり、雪の中、身も心もガチガチな状況で試験会場に到達した受験生をいきなりの難問集合ブロックで打ちのめした挙句、最後の最後、国家試験から開放される寸前のブロックでまた難問ラッシュを浴びせ、意気消沈した状況で帰宅させる、という構成だったというわけだ。

そのため108回の受験生からは;

  • 「暗く狭いトンネルを3日間続けて匍匐(ほふく)前進しているかのようだった」
  • 「医学的知識を問う試験ではなく、メンタルの強さを測る実技試験だった」
  • 「試験が終わった後も、心が晴れず、卒業旅行を楽しめなかった」

といった声が聞かれた。また、事実かどうか不明だが1日目が終わった段階で不合格を確信し、2日目以降試験会場に行けなかった受験生もいたらしい。筆者も当時リアルタイムで国試を見ていたが「おいおい、これはヤバイぞ」と冷や汗をかいた覚えがある。

とはいえ、そうした試験が実際に行われたことに間違いはない。こうした無理難題にぶちあたってしまった場合、どう対応したらよいのか。以下、108回を丁寧に振り返る中で考察していきたい。

①分野ごとの出題数

全500問の内訳を以下に示す。

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大雑把にみて内科が45%、小児産婦・マイナー・公衆衛生がそれぞれ15%程度といった分配となっている。

特記すべきなのは、内科・マイナー・公衆衛生の出題数が減少し、その分「その他」の割合が3%増加したことである。「その他」というくくりは救急・麻酔・外科・老年病・中毒、といった分野を統合したものであり、高齢化などの現代事情と医学の多様化に従い勢力を伸ばしてきているものと考えられる。

同時にマイナー領域の出題数減少は目を見張るものがある。従来90〜100問/年の出題があったが、今回は80問を割ることとなった。

従来の国家試験は「内科ができれば合格できる」とされていたが、そういう時代は過去のものとなった。今や医師国家試験は総合力とバランスが求められる試験といえる。

②科目ごとの出題数

①のくくりを細分化し、科目ごとの出題数を示す。

108_kamoku

内科領域では消化管・循環器・内分泌代謝・神経が、マイナー領域では眼科・精神科から多く出題されている。そして公衆衛生の出題が全科目の中では最多となる。が、これは例年のことであり、驚くに値しない。

107回では産婦人科の出題数が30問程度しかなく、異例の少なさであったが108回では40問弱、と従来通りに戻った。これは健全なことで、望ましいといえる。

①で述べた「その他」の分野であるが、救急からの出題が目覚ましい。腎や血液、免疫といったメジャー分野の出題数を軽く凌ぐ。

なお、一番右端に紫色で示した「医学素養」とは医療面接などの必修領域に多い、常識的センス内で解答可能なものであり、確実に得点したいサービス問題である。

③108回のトピック

例題に誤植!? 一般ブロックに臨床!?

冊子に誤植、というのはいつの時代にもあるもので珍しいことではない。が、108回ではあってはならない部分に誤植があったのだ。こちらを参照いただきたい。アニオンギャップは138-25-95であるから、18のはずだ。だが、この例題では答えが12となっている! ……よくよく考えて見れば例題が間違えている、っていうのはすごいことではなかろうか。マナーの講師をお招きしたら時間に遅れてきたようなもので、あるいはフライトアテンダントが機内のトイレでこっそりタバコを吸っていたようなもので、要はその試験の存在自体が疑わしくなってしまう。

ではこの誤植、いつから発生したのか。107回の冊子がこちら。なんと答えは合っている! 問題設定が同じにもかかわらずどうして解答だけ変えてしまったのか。歴史に残る七不思議と言えよう。

余談だが、後日厚労省のホームページで公開された際の冊子がこちら。クロールの値をいじって、強引に正答を12に持っていっている。「例題の誤植を訂正」と一応示してあったので、誠意は感じる対応であった。

消去法が有効

(現在執筆中です)

④印象に残った問題

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⑤合格発表

合格発表の結果を示す。
108_goukaku

(採点除外問題のリンクはこちら:108D13, 108E32, 108F23

107回(合格データはこちら)と比べ、合格に必要な得点率は大きく下がった(一般問題は-4.2%、臨床問題は-5.3%)。合格率を保つために止むなく合格ラインを下げたわけであり、裏を返せば108回はやはり難問がそろっていた、ということとなる。だが同時に、一般問題も臨床問題も65%の必要得点率を保っており、全国的な受験生のレベル向上が読み取れる。

⑥まとめ

まとめよう。各論での難問出題が多かったため、AとIブロックがたまたま難しく構成されてしまったが、総論や必修には基本的な出題が多く、総合力で立ち向かうべき試験だった、というのが108回の正しい認識と言える。また、一見難問にみえる問題も、選択肢を吟味して消去法で正答に至ることは十分に可能であった。合格率も90.6%と例年並みであり、難しい問題が出たら出たなりに、合格基準は低下し、試験としては成立する、ということが分かる。

今後の国家試験でも、108回のようなセットが出現する可能性は否めない。ただし、難しい問題は誰にとっても難しいわけであって、正答率は下がる。受験生各人が学習の成果を存分に発揮し、取れる問題を確実に正答していけば合格は十分に可能であり、試験期間を通じて強い精神力を保ち続けることが求められる。結局は「マイペースに1つ1つ丁寧にこなす」という王道な学習が功を奏するといえ、次回以降の受験生もコツコツと頑張って欲しい。当、medu4のサイトが少しでも精神的支えになることを祈っている。

107回医師国家試験・総評

2013年2月9日から11日の3日間にわたり、第107回医師国家試験が施行された。

①分野ごとの出題数

全500問の内訳を以下に示す。

107_bunya

②科目ごとの出題数

ここでは科目ごとの出題数を分析する。
従来40問以上出題されていた産婦人科からの出題が大幅に減少したことが注目に値する。

107_kamoku

③合格発表

合格発表の結果を示す。
107_goukaku

(採点除外問題のリンクはこちら:107A48