109I78

42歳の男性。人間ドックの腹部CTで異常を指摘されたため来院した。既往歴に特記すべきことはない。喫煙歴と飲酒歴とはない。身長172cm、体重75kg。脈拍76/分、整。血圧142/82mmHg。身体所見に異常を認めない。血液所見:赤血球420万、Hb 14.4g/dL、Ht 41%、白血球8,000(桿状核好中球10%、分葉核好中球70%、単球4%、リンパ球16%)。血液生化学所見:空腹時血糖102mg/dL、HbA1c 5.9%(基準4.6〜6.2)、Na 141mEq/L、K 4.3mEq/L、Cl 106mEq/L、ACTH 7pg/mL未満(基準60以下)、コルチゾール11.8μg/dL(基準5.2〜12.6)、アルドステロン106pg/mL(基準45〜106)、血漿レニン活性2.4pg/mL/時間(基準1.2〜2.5)。尿中メタネフリン0.11mg/日(基準0.05〜0.23)、尿中ノルメタネフリン0.14mg/日(基準0.07〜0.26)。人間ドックの腹部単純CTを別に示す。
診断に有用な検査はどれか。2つ選べ
腹部超音波検査
選択的副腎静脈採血
カプトプリル負荷試験
デキサメタゾン抑制試験
131I-アドステロールシンチグラフィ

解答: d,e

109I78の解説

内分泌領域のかなり深い理解を問う、難問。ただし、いたずらに難しいのではなく、きちんと理解できている受験生は解くことができる問題であり、良問と言えよう。血圧がいささか高い印象を受けるも、軽度肥満のある中年男性であり、「そんなもんか」と見過ごしてしまうそうだ。ここで警鐘をならす一句が「喫煙歴と飲酒歴とはない」という部分。この記載からは暴飲暴食や不摂生な生活習慣なども想像しにくい。何か別の理由から血圧が上昇し、肥満となっているのではないか、と考えていくこととなる。続いて検査項目に目を通すが、一見すべての項目が基準値内にある。が、見逃してはならないのはACTH。7pg/mL未満、と抑制されている。以上の考察と、腹部CTでの左副腎部の腫瘤影、そして自覚症状がない、という事実からsubclinical Cushing症候群を想起したい。すなわち、左副腎腫瘍より自律的なコルチゾール分泌があり、それにより下垂体由来のACTHが抑制されているのだ。

a すでに超音波検査より細部まで分かるCTが実施されているため、診断のために実施する意味はない。
b 原発性アルドステロン症で左右それぞれの副腎からどれだけのアルドステロン分泌があるか、をみる検査。現状、アルドステロンは基準値上限にあるも、レニン活性は抑制されておらず、原発性アルドステロン症は否定的。そもそも、104A60-fで出題があるように、原発性アルドステロン症は小さいため、偶発的に発見されることが稀。
c これも原発性アルドステロン症の検査。
d 正しい。Cushing病であれば抑制があるが、副腎腫瘍であれば視床下部〜下垂体の支配から外れた自律性のコルチゾール分泌があるため、抑制がみられない。
e 正しい。Cushing症候群の検査の1つである。

極論を言ってしまうと、すでにCTを実施した後に診断のために超音波検査をすることはありえず、aは論外。原発性アルドステロン症を疑うならb・cが正解のはずで、Cushing症候群を疑うならd・eが正解となるはずだ。上記にもあるように、原発性アルドステロン症が偶発的に発見されることはレアであり、今回のように大きな腫瘍であればCushing症候群を考えたいため、dとeは選べる。104A60をやっていれば、診断まで至らなくても正答には至る問題。

いずれにせよ、I78という、最後の最後でここまでの強力なパンチのある問題を出してくる、というのは受験生に酷である。

【参考】 
99F38に以下のような出題がある。このときはコルチゾールの値を基準値オーバーに設定してくれているため、ありがたかった。

 35歳の女性。人間ドックで右副腎部に径1.5cmの腫瘤を指摘されて来院した。身長162cm、体重58kg。脈拍76/分、整。血圧126/78mmHg。血液所見:赤血球400万、Hb 13.0g/dl、Ht 40%、白血球7,000。血清生化学所見:空腹時血糖96mg/dl、Na 142mEq/l、K 3.8mEq/l、Cl 102mEq/l。コルチゾール18.5μg/dl(基準5.2〜12.6)、アルドステロン8.2ng/dl(基準5〜10)、血漿レニン活性2.1ng/ml/時間(基準1.2〜2.5)。
 次に行う検査はどれか。 
 a インスリン負荷試験 
 b アルギニン負荷試験 
 c メトピロン負荷試験 
 d デキサメサゾン抑制試験 
 e フロセミド負荷試験

正答率:45%

テーマ:subclinical cushing症候群の診断に有用な検査

フォーラムへ投稿

関連トピック